海上自衛隊特殊部隊『特別警備隊』の装備と部隊概要

画像の出典 Korea Defense Blog リムパック2022に参加する日本の海自および米韓独印海軍の特殊部隊

特別警備隊 Special Boarding Unit 通称、SBUと海自の新任務「臨検」および「海賊対処」

海上自衛隊特別警備隊は2001年に自衛艦隊の直轄部隊である広島県の海上自衛隊江田島地区(基地)に創設された3自衛隊で初の特殊部隊だ。陸海両用部隊とされ、陸上自衛隊の特殊作戦群と同様、隊員のレベルは究極だ。

海上自衛隊の本来任務の一つに、有事や海上警備行動発令時における外国船舶に対する臨検があるが、近年では工作船で日本人拉致を公然と行う北朝鮮政府への対応や、国際協力活動としての海賊問題対処など、任務は多様化するばかりだ。

また、海上自衛隊にはレーダーなどを用いて海峡などを行き交う外国艦船の監視警戒を行なう「警備所」があり、重要施設を敵軍のゲリラ・コマンドゥ攻撃から警備するためにも特殊部隊の必要性が議論されていたなかでのSBU創設であった。

特殊部隊『特別警備隊』創設の直接のきっかけは『不審船事件』と自衛隊史上初の海上警備行動の発令

SBU創設には1999年に発生した不審船(工作船)事件の勃発が大きい。当時の工作船事件の詳しい解説は以下のページで行った。

特殊部隊SBUや護衛艦付き立入検査隊編制のきっかけとなった北朝鮮の工作船事件とは

結果的に、この事件は海上自衛隊に3自衛隊初となる特殊部隊が生まれたきっかけとなった。

特別警備隊のモデルは米国海軍特殊部隊Navy SEALs

ホバーリングするヘリから海中へ降下するNavy SEALs隊員

ホバーリングするヘリから海中へ降下するNavy SEALs隊員。『Navy SEALs 特殊部隊ネイビーシールズのデモンストレーション』より 出典 USA Military Channel

SBUはどの国の特殊部隊を手本としたか。それは自衛隊の同盟軍たる米国海軍の特殊部隊Navy SEALs(ネイビーシールズ)だ。Navy SEALsは米軍を代表する精鋭部隊であり、各国軍のエリートフォーセスが教本とする部隊だ。海自特警隊も例外ではなく、Navy SEALsの根城であるサンディエゴ米海軍基地へ派遣されて訓練を受けている。

一方、平成12年2月から3月の間、イギリス海兵隊の特殊舟艇部隊SBS(Special Boat Service)関係者が、特別警備隊に対して基礎訓練を行ったことが報じられている。

また、陸上自衛隊の第1空挺団空挺教育隊にて空挺レンジャーの訓練も実施しており、特警隊員も空自航空救難団のパラメディック同様、陸自のレンジャー資格を取得していると推測される。

蝙蝠とサソリがモチーフの”特別警備隊徽章”とは

海上自衛隊の徽章

特警隊の徽章は「特別警備隊徽章」として2001年の発足と同時に制定されているが、その意匠たるや、不気味さを感じさせずにはいられない。

海上自衛隊の各職種の徽章はこれまでどれも、艦艇や翼、錨など海軍としてオーソドックスなシルエットがモチーフとなっていたが、新たに制定された「特別警備隊徽章」は中央に”羽ばたくコウモリ”、その下には”毒尾を持ち上げ鋏を振り上げるサソリ”を配しており、海自の徽章としては威圧的で一種異様な印象を見る者に与えるはずだ。

実際、海上自衛隊の公式サイトでは特別警備隊徽章について、以下のように説明する。

海上警備行動下における不審船の武装解除および無力化を主任務として2001年に創設された特別警備隊(SBU)に所属する隊員に授与される。中央にコウモリ、下にサソリを配したデザインで、特殊部隊の徽章であり他とは全く雰囲気が異なる。

出典 海上自衛隊八戸航空基地

また、海上自衛隊によるソマリア沖・アデン湾における『海賊対処行動』作戦への派遣を機会に新しくデザインされ、第2次隊の特別警備隊員から実際に使用されているパッチも同じくコウモリとサソリがモチーフだが、さらに髑髏が追加され、より挑発的で平和を愛する人々にはさらに刺激が強い図柄になっている。”所属部隊名が敢えて無表記なのがパッチの大きな特徴”とのことで、マニアが萌える要素満点の実にミステリアスな仕様だ。

SBU隊員の出身職種と部隊

特別警備隊員の多くは海上自衛隊の基地防備部隊である陸警隊出身であるという。一方で、パイロットや警務官からの選抜も行われているという。特警隊員の選抜は原則として、三等海曹以上且つ30歳未満の隊員が対象。身体能力では射撃、運動、水泳などに優れていることが要件だ。

空からの機動的な展開手段を持つ最強ヤバイ特警隊(SBU

空からの機動的な展開手段を持つ特別警備隊

宮嶋茂樹氏の写真でも判るとおり、SBUの作戦展開には護衛艦や特別機動船のほか、ヘリコプターが用いられている。艦艇にも搭載されているSH-60J/K対潜哨戒ヘリ(魚雷&機銃搭載)に乗り込んで、海面すれすれを飛び、目標艦艇上空で急上昇しホバリング。ファストロープで次々とSBU隊員が目標艦艇に降下、敵兵を強襲制圧する手はずだ。

MCH-101

アグスタウエストランド MCH-101

なかでも海自が2003年(平成15年)から新規配備した『アグスタウエストランド MCH-101』は機動性と輸送能力に優れた大型ヘリで、民間向けのAW101 VIP仕様では簡易キッチンやトイレといったオプションまで設置できるほど機内収容に余裕がある。海自のMCH-101は掃海、哨戒、さらに輸送が本来任務で、1機あたり1個小隊(16から24名)が搭乗可能だ。

SBUではMCH-101による機動的な部隊展開を想定しており、離島占拠への対処、工作船、覚せい剤輸送船などに対して迅速な強襲と逮捕制圧が可能なのだ。

ソマリア沖の海賊対処ミッションへも派遣

一方、日本政府は国際社会と共同して行うソマリア沖の海賊対処において、海自艦艇ならびにP-3C対潜哨戒機とともに、特別警備隊員も少数派遣している。

また、今回の海賊対処では海上自衛官ではなく、海上保安官による海賊の逮捕を第一義的に想定しており、海上保安官も同じく護衛艦に同乗して派遣されているが、海上保安官で対処できない場合、特警隊員はまさに海賊制圧のカードとなるものと見られている。

防衛省ではジブチ共和国へ派遣部隊の主力かつ自衛隊初となる「海外基地」が建設された。建設された日本国海上自衛隊ジブチ基地の施設郡はオフィスビル、宿舎、P-3C哨戒機格納庫、体育館など合計27億円相当の大規模なもので、イラク・サマワ派遣の際の「宿営地」と異なり、近代的だ。

ただし、防衛省はあくまで時限的な基地であり恒久的なものではないとしている。

SBUに配備される個人装備と銃器を考察

当時、海自の広報担当者が言った「これが最初で最後の公開です」というセリフは重い。実際に当時、海自は特別警備隊の演習や装備品をメディアに公開しなかった。そのため、個人装備などの多くはベールに包まれており、やはり陸自の特殊部隊「特殊作戦群」の装備同様に装備品調達情報などからの類推が必要となっていた。

HK416らしき小銃で武装する海上自衛隊特殊部隊員(濃紺の警備服を着用した中央の隊員)画像の出典 Korea Defense Blog

特殊部隊であることから、今なお厳しく情報は統制されているものの、2024年現在は米軍関係メディアや同盟国のブロガーによる積極的な情報発信により、日本の自衛隊特殊部隊の姿が公になっている。ただし、これが日本の当局側と同じ思惑によるメディア戦略であるか否かは留意する必要がある。陸自の特殊部隊の例だが、情報公開を巡って外国軍との歩調が明らかに取れていなかった事例があるからだ。

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特別警備隊員に貸与されるのは濃紺の警備服、そのほかほぼ黒色で統一された防炎バラクラバ、戦闘靴、ヘルメット、タクティカルベストやレッグホルスターといった装具一式。ほかにもSBUではアメリカ海軍と酷似している海上自衛隊の新型迷彩服の着用も想定されている。

小銃と拳銃

ジャーナリストでカメラマンの宮嶋茂樹氏の公式サイトにて、公開訓練時におけるSBU隊員の装備写真が詳しく掲載されているが、同氏がキヤノンの白レンズで撮影した写真には荒海を飛沫を上げて駆ける真っ黒い特別機動船に乗船した隊員たちが、鈍く光る89式の銃口を四方八方に向けている姿が収まっている。

さらに上空からはSH-60J対潜哨戒ヘリが飛来する。武装解除と無力化への序曲だ。ヘリに乗った隊員たちは後部キャビンから89式小銃折り畳み式銃床型を突き出して荒海をねめつける。特別機動船からは小銃を背負った手足の長いSBU隊員らが、不審船に見立てた海自護衛艦にラダーを使って次々に乗り移る。

その甲板上では、敵役を務めるジャージ姿の海自隊員らが、すでにヘリからラッペリングで降下してきたSBU隊員によって短銃で威嚇され武装解除された。隊員の手に鈍く輝くのは警視庁や神奈川県警特殊部隊、それにモルダー捜査官も使用している15+1発(9mm)のシグ・ザウアーP226(R)けん銃と見られる。銃身下部には艦内に潜む敵のアブリダシとメクラマシに威力を発揮する強力なフラッシュライトが装着されている様子だ。

自衛隊の9mm拳銃(P220)とP226Rの性能とは?

 

出典 宮嶋茂樹 儂・サイト
http://www.fushou-miyajima.com/gekisya/080528_01.html

現在までに確定している装備品は89式小銃、それに軍事専門誌「J-GROUND」Vol.16にスッパ抜かれたことで発覚した狭い艦内でも取り回しの良い伸縮式ストックを装備したMP5サブマシンガン、2007年6月28日の公開訓練でお披露目されたP226R拳銃の3種だ。商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。お買い物される際には、必ず商品ページの情報を確認いただきますようお願いいたします。また商品ページが削除された場合は、「最新の情報が表示できませんでした」と表示されます。なお、隊員は普段、第一術科学校において和歌山県の「PDI」というエアガン改造部品および警察向けの対・暴走族用エアガンを製造する企業が納入した訓練用のMP5型ペイントボール・エアガンを使用してClose Quarters Battle(CQB…近接戦闘)のトレーニングを行っていることからも、海上自衛隊SBUにおいて、MP5の配備はほぼ裏付けがとれていると言える。

また、サイドアームでは”装弾数の少ない9mm拳銃(P220)では強襲制圧時の攻撃力に乏しい”と判断されたのか不明だが、ダブルカラムマガジンで15+1発のシグ・ザウエルP226Rを使用。P226のフレーム前下部にアタッチメントレールを追加したタクティカル”R”仕様。前述のPDI社ではP226R型の『官公庁向け訓練用』も製造しており、警察のみならず、海自へ納入されていても不思議ではない。自衛隊の次期拳銃についてはすでに『H&K SFP9』の導入が決定されており、陸自を中心に配備が進められているが、SBUでも配備される可能性がある。

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海上自衛隊特別警備隊SBUの配備する小銃は早い時期から米軍制式小銃のM4と指摘されており、当時その出典は複数あったが、そのひとつには著名な戦場劇画家の小林源文氏のweb上での発言がある。「俺は裏から流れた映像に写真は見たよw」、商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。お買い物される際には、必ず商品ページの情報を確認いただきますようお願いいたします。また商品ページが削除された場合は、「最新の情報が表示できませんでした」と表示されます。「拡大した写真では米軍のM4を持ってる日本版シールが見える」と同氏がコメントしており、特別警備隊がM4(HK416の元となったコルト社のオリジナル)を配備していることを示唆した。さらに、防衛省の公開した公告に「H&K製HK416」の名称があることから裏付けが取れた。しかし、装備品はこれだけに留まらないようだ。さらに防衛省が自ら公開している海自の装備品調達に関する公開文書には「H&K製MSG-90」の名称がある。それに拠れば、株式会社JALUX経由でHeckler & Koch社のHK416およびMSG-90を取得したと想起させる記載がある。株式会社JALUXといえば、双日グループの商社。女子高生向けコンビニスイーツをヒットさせたことが知られているが、実は同社はHeckler & Koch社の日本総代理店でもある。なお、MSG-90についてはアジア太平洋企業という企業が輸入している可能性もある。

HK416らしき小銃で武装する自衛隊特殊部隊員(濃紺の警備服を着用した隊員)画像の出典 Korea Defense Blog

“特殊部隊での私物着用”は諸外国ではポピュラーだが、SBUでは装具の統一感は強めだ。特殊部隊ではないが、同じ海自の『立入検査隊』、陸自では『水陸機動団』においては隊員の私物着用が比較的多いと指摘されており、各個人によってはゴーグルやブーツなどに違いが見られる。

SBUまとめ

いまだ断片しか情報はないものの、2024年現在も海上自衛隊特別警備隊への注目は止みはしない。平成24年7月11日には防衛省男女共同参加推進本部の決定により、それまで防衛省の母性保護政策によって一部部隊や危険性の高い職種において女性自衛官の配置制限が行われていた措置が緩和されている。さらに2016年3月15日、防衛省が女性の活躍推進の一環として女性自衛官の配置制限をさらに緩和。陸上自衛隊の攻撃ヘリパイロットのほか、海上自衛隊特別警備隊への起用を発表したのだ。産経新聞社の報道によると、訓練を経て2017年度以降に配置(任用)が始まるとしている。すでに特別警備隊に女性隊員が誕生しているかもしれないのだ。

  1. 特別警備隊SBUは海上自衛隊の特殊部隊。その創設は陸自の特殊作戦群より早い。
  2. 装備は89式のほか、MP5、HK416、MSG-90、P226Rなど一般隊員の装備とは異なる。
  3. 訓練および装備は二度と公式に公開されない。
  4. 2016年3月、防衛省は母性保護政策を緩和し、SBUへの女性自衛官配置を解禁
  5. 徽章がコウモリとサソリ。超怖い。

いずれにせよ、日本版シールズも時代の趨勢から今後は国内外で国際平和サービスを提供していく可能性が高まっている。しかし、中東某国の砂漠地帯でSBUの女性自衛官が持つHK416が砂を咬みながらも、TOYOTAの軽装甲ピックアップに乗った黒覆面のテロリストたちを猛烈にプスプスとピアッシングし、人質となった日本大使館職員や現地スタッフ、同盟国の人々を華々しく救出し「忘れなさい。私たちは存在しないのよ」などと呟いて、いずも型護衛艦で便所掃除しながら帰国するなんてことが実際に起きないことを心から願うばかり。今後も引き続き、変わらずの平和を希求することでこの記事を終えたい。戦争反対。南無阿弥陀仏。