平時は刃引き、有事に刃付けする自衛隊の銃剣

自衛隊の銃剣を繙く

軍用小銃の先端に装着する短剣のような刃物を銃剣と呼ぶ。銃剣の発祥地がフランスのバイヨンヌという地方であったことからBayonet(バイヨネット)と呼ばれている。

軍隊とは切っても切れない銃剣。もちろん自衛隊でも配備されている。小銃に銃剣を装着することを着剣と呼ぶが、そのための”着剣装置”が備わっており、日本では刀剣類に該当するため、武器等製造法によって法規制の対象となっている。そのため、一般人が所持することは許されず、日本ではやはり自衛官専用の商売道具と言えるだろう。

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64式小銃用と89式小銃用、儀仗ライ フル用のものがあり、64式用の銃剣は長く、まさに「短剣」のようなスタイルだが、89式小銃用多用途銃剣は64式用と比べて全長が短く、サバイバルナイフに近い形状だ。携行する際は隊員の腰の弾帯に、鞘へ収められた状態で吊られている。

89式小銃と専用の89式用多用途銃剣

米軍の元・日本人大尉によれば、陸上自衛隊特殊部隊「特殊作戦群」ではM4カービンを使用しているとのことなので、M4用の銃剣も別途、用意されているだろう。

陸上自衛隊の『一部』で配備されるM4に関する「ある事件」とは?

現代の銃剣には複合的な機能がついており、ワイヤーカッター、鋸、スコップ、栓抜きなどの機能を併せ持つ優れたサバイバル・ギアだ。

自衛隊銃剣格闘

余談だが、自衛隊では銃剣術、銃剣格闘は現用で運用されているが、アメリカ陸軍では2010年に着剣した小銃での格闘訓練を廃止している。代わりに銃剣を手に持って闘うことを想定した訓練を行っている。

89式の銃剣は”多用途タイプ”

過去、多くの国の軍隊では戦場で缶切りを紛失した場合は銃剣を刺して缶詰めの蓋を開けていた。近代以降は多くの軍隊でレーションには簡易な缶切りも付属するようになったが、兵士はこの簡易缶切りを大切に自分の認識票のボールチェーンに通して携行していた。

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写真は真鍮製のレプリカ。

現代では缶切り機能やワイヤカッター機能などを備えた多用途な銃剣を多くの国の軍隊で配備しており、自衛隊の「89式用多用途銃剣」もその名の通り、ワイヤーカッター機能や、鞘には缶切り、栓抜き機能も搭載されているのだ。

自衛隊の銃剣は”刃付け”されていない?

ところで、自衛隊が使用している銃剣には普段は刃付けされておらず、いわゆる”刃引き”の状態となっているのはご存知だろうか。海外派遣、そして有事の際、はじめて刃付けすることになっているのだ。かのよしのり氏の著書『自衛隊89式小銃 日本が誇る傑作小銃のすべて』の第4章 最高の89式小銃に「研いではならない「銃剣」」という一編がある。

普段は先が尖っているので何かを刺すことには使えても、切るという目的で使うのは難しいのが自衛隊の銃剣の現実なのである。

銃剣はカンピン。壊したり紛失すると大変なことに……。

それに当然、銃剣は官品だ。壊したり紛失しようものなら大変なことに。前述したように銃剣は法律上の武器でもある。自衛官が武器を紛失したならば、どう報道されるだろうか。また国民の税金で買った大切な装備品なので、私物のサバイバルナイフや10徳ナイフ(アーミーナイフ)感覚で扱うことも許されはしない。紛失すると大捜索が待っている。

銃剣を紛失したら750人で大捜索!

実際、過去には北海道の広大な演習場として知られる北海道大演習場島松地区(恵庭市)で訓練中だった陸自の男性士長が、さやに入れて携行していた銃剣を紛失し、750人の隊員で捜索活動に当たったにもかかわらず、発見できなかったという事案があった。

「そこが変だよ自衛隊」でも言及されているが、自衛隊では薬きょう一つ無くしても大捜索が待っている。

カラ薬莢の場合、探しても見つからなければ、こっそりとカラ薬きょうをポケットから出して「あったどー!」とやって員数を合わせれば「お咎め無し」だったそうだが、銃剣でそれをやるのは無理がある。

ただ、自衛隊では装備品の管理が米軍などに比べると大変厳しく、紛失するのは稀なこと。とは言え、2015年9月20日には北部方面隊滝川駐屯地の隊員が矢臼別で演習中に銃剣を一時紛失し騒動になっている。

自衛官の私物のサバイバルナイフや10徳ナイフ(アーミーナイフ)事情

隊員が任務で使う個人的な装備、いわゆる私物は意外と多いが、その代表格に私物ナイフが挙げられるかもしれない。自衛隊員が野外の作業で使用するナイフは基本的に銃剣ではなく、個人がそれぞれ私物で用意した市販のアーミーナイフや、サバイバルナイフなのである。

部隊では銃剣を支給してはくれても、最も使い勝手の良いアーミーナイフを支給してくれないから。通信科では官給で電工ナイフを支給するケースもあるが、普通科にはない。

こまごまとした作業にはやっぱり日本で10徳ナイフと呼ばれるスイス・ウェンガーやヴィクトリノックス製のアーミーナイフが便利だし、実用的。部隊長がうるさくなければ、基本的に訓練で私物ナイフの使用が認められるのが通例だ。

また、野生生物を仕留めてそのまま捌いて食うレンジャー訓練では切れ味の良いサバイバルナイフだって必要になるのだ。またその話か……いい加減気持ち悪いからやめろっての。

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