特別警備隊 と海自の新任務「臨検」および「海賊対処」
海上自衛隊特別警備隊(Special Boarding Unit S B U)は2001年に自衛艦隊の直轄部隊である広島県の海上自衛隊江田島地区(基地)に創設された3自衛隊初の特殊部隊です。陸海両用部隊とされ、陸上自衛隊の特殊作戦群と同様、隊員のレベルは究極。
海上自衛隊の本来任務の一つに、有事や海上警備行動発令時における外国船舶に対する臨検がありますが、近年では工作船で日本人拉致を公然と行う北朝鮮政府への対応や、国際協力活動としての海賊問題対処など、任務は多様化するばかり。
また、海上自衛隊にはレーダーなどを用いて海峡などを行き交う外国艦船の監視警戒を担う「警備所」があり、重要施設を敵軍のゲリラ・コマンドゥ攻撃から警備するためにも特殊部隊の必要性が議論されていたなかでの創設でした。
創設には1999年に発生した不審船(工作船)事件の勃発と自衛隊史上初の海上警備行動の発令です。
結果的に、この事件は3自衛隊初となる特殊部隊が海自に創設されるきっかけとなりました。
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SBUは自衛隊の同盟軍たる米国海軍の特殊部隊Navy SEALs(ネイビーシールズ)に習っています。SEALsは米軍を代表する精鋭部隊であり、各国軍のエリート部隊が手本としていおり、特警隊も例外ではなく、SEALsの根城である米海軍サンディエゴ基地(Naval Base San Diego)で訓練実績があります。また、平成12年2月から3月の間、イギリス海兵隊の特殊舟艇部隊SBS(Special Boat Service)関係者が、特別警備隊に対して基礎訓練を行ったことが報じられています。
また、陸上自衛隊の第1空挺団空挺教育隊にて空挺レンジャーの訓練も実施しており、特警隊員も空自航空救難団のパラメディック同様、陸自のレンジャー資格を取得していると推測されます。
蝙蝠とサソリがモチーフの”特別警備隊徽章”とは
特警隊の徽章は「特別警備隊徽章」として2001年の発足と同時に制定されており、その意匠たるや極めて異様。
海上自衛隊の各職種の徽章はこれまでどれも、艦艇や翼、錨など海軍としてオーソドックスなものがモチーフでしたが、新たに制定された「特別警備隊徽章」は中央に”羽ばたくコウモリ”、その下には”毒尾を持ち上げ鋏を振り上げるサソリ”を配しており、海自の徽章としては威圧的で一種異様な印象を見る者に与えるはず。
実際、海上自衛隊の公式サイトでは特別警備隊徽章について、以下のように説明します。
海上警備行動下における不審船の武装解除および無力化を主任務として2001年に創設された特別警備隊(SBU)に所属する隊員に授与される。中央にコウモリ、下にサソリを配したデザインで、特殊部隊の徽章であり他とは全く雰囲気が異なる。
出典 海上自衛隊八戸航空基地
また、海上自衛隊によるソマリア沖・アデン湾における『海賊対処行動』作戦への派遣を機会に新しくデザインされ、第2次隊の特別警備隊員から実際に使用されているパッチも同じくコウモリとサソリがモチーフだが、さらに髑髏が追加され、より挑発的で平和を愛する人々にはさらに刺激が強い図柄になっていることに留意が必要です。”所属部隊名が敢えて無表記なのがパッチの大きな特徴”とのことで、マニアが萌える要素満点の実にミステリアスな仕様となっています。
SBU隊員の出身職種と部隊
特別警備隊員の多くは海上自衛隊の基地防備部隊である陸警隊出身とされています。一方で、パイロットや警務官からの選抜も。特警隊員に求められる身体能力の要件は射撃、運動、水泳などに秀でている事は当然ですが、三等海曹以上且つ30歳未満の隊員が対象とされています。
空からの機動的な展開手段
SBUの作戦展開には護衛艦や特別機動船のほか、ヘリコプターが想定されており、有事の際は海自の艦載ヘリでもあるSH-60J/K対潜哨戒ヘリ(魚雷&機銃搭載)に乗り込んで、海面すれすれを飛び、目標艦艇上空で急上昇しホバリング。ファストロープで次々とSBU隊員が目標艦艇に降下、強襲制圧する手はずとなっています。
アグスタウエストランド MCH-101
さらにSBUではMCH-101による機動的な部隊展開を想定しており、離島占拠への対処、工作船、覚せい剤輸送船などに対して迅速な強襲と逮捕制圧が可能。
海自が2003年(平成15年)から新規配備した『アグスタウエストランド MCH-101』は機動性と輸送能力に優れた掃海、哨戒、輸送用の多目的大型ヘリです。民間向けのAW101 VIP仕様では簡易キッチンやトイレといったオプションまで設置できるほど機内収容に余裕があります。海自のMCH-101は1機あたり1個小隊(16から24名)が搭乗可能です。
ソマリア沖の海賊対処行動への派遣
一方、日本政府は国際社会と共同して行うソマリア沖の海賊対処において、海自艦艇およびP-3C対潜哨戒機とともに、特別警備隊員も少数派遣しています。
また、今回の海賊対処では海上自衛官ではなく、海上保安官による海賊の逮捕を第一義的に想定しており、海上保安官も同じく護衛艦に同乗して派遣されていますが、海上保安官で対処できない場合、特警隊員はまさに海賊制圧のカードとなるものと見られています。
防衛省ではジブチ共和国へ派遣部隊の主力かつ自衛隊初となる「海外基地」が建設されています。ジブチ基地の施設郡はオフィスビル、宿舎、P-3C哨戒機格納庫、体育館など合計27億円相当の大規模なもので、イラク・サマワ派遣の際の「宿営地」と異なり、近代的。ただし、防衛省はあくまで時限的な基地であり恒久的なものではないとしています。
SBUに配備される個人装備と銃器を考察
「これが最初で最後の公開です」
当時、海自の広報担当者はこう言っています。実際に当時、海自は特別警備隊の演習や装備品をメディアに公開しなかったため、個人装備などの多くはベールに包まれており、やはり陸自の特殊部隊「特殊作戦群」の装備同様に装備品調達情報などからの類推が必要となっていました。
特殊部隊であることから、今なお厳しく情報は統制されているものの、2024年現在は米軍関係メディアや友好国のブロガーによる積極的な情報発信により、少しずつその姿が公になっています。ただし、これが日本の当局側と同じ思惑によるメディア戦略であるか否かは留意が必要と言えそうです。陸自では特殊部隊の情報公開を巡って外国軍との歩調が明らかに取れていなかった事例があるためです。
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特別警備隊員に貸与されるのは濃紺の警備服、そのほかほぼ黒色で統一された防炎バラクラバ、戦闘靴、ヘルメット、タクティカルベストやレッグホルスターといった装具一式。ほかにもSBUではアメリカ海軍と酷似している海上自衛隊の新型迷彩服の着用も想定されています。
小銃と拳銃
ジャーナリストでカメラマンの宮嶋茂樹氏の公式サイトにて、公開訓練時におけるSBU隊員の装備写真が詳しく掲載されていますが、同氏がキヤノンの白レンズで撮影した写真には荒海を飛沫を上げて駆ける黒い特別機動船に乗船した隊員たちが、89式の銃口を船外に向け警戒している姿が収まっています。
さらに上空からはSH-60J対潜哨戒ヘリが飛来。武装解除と無力化への序曲となるようです。ヘリに乗った隊員たちは後部キャビンから89式小銃折り畳み式銃床型を突き出して荒海をねめつけます。特別機動船からは小銃を背負ったSBU隊員らが、不審船に見立てた海自護衛艦にラダーを使って次々に乗り移ります。
その甲板上では敵役を務めるジャージ姿の海自隊員らが、すでにヘリから降下してきたSBU隊員によって短銃で威嚇され、武装解除されています。隊員の手には警視庁や神奈川県警、それにモルダー捜査官も使用している15+1発(9mm)のシグ・ザウアーP226(R)けん銃と見られます。銃身下部には艦内に潜む敵のアブリダシとメクラマシに威力をマシマシ発揮する強力なフラッシュライトが装着されていることに留意すべきです。
出典 宮嶋茂樹 儂・サイト
http://www.fushou-miyajima.com/gekisya/080528_01.html
現在までに確定している装備品は89式小銃、それに軍事専門誌「J-GROUND」Vol.16にスッパ抜かれたことで発覚した狭い艦内でも取り回しの良い伸縮式ストックを装備したMP5サブマシンガン、2007年6月28日の公開訓練でお披露目されたP226R拳銃の3種。なお、隊員は普段、第一術科学校において和歌山県の「PDI」というエアガン改造部品および警察向けの対・暴走族用エアガンを製造する企業が納入した訓練用のMP5型ペイントボール・エアガンを使用してClose Quarters Battle(CQB…近接戦闘)のトレーニングを行っていることからも、海上自衛隊SBUにおいて、MP5の配備はほぼ裏付けがとれていると言えるでしょう。
また、サイドアームでは”装弾数の少ない9mm拳銃(P220)では強襲制圧時の攻撃力に乏しい”と判断されたのか不明ですが、ダブルカラムマガジンで15+1発のシグ・ザウエルP226Rを使用。P226のフレーム前下部にアタッチメントレールを追加したタクティカル”R”仕様。前述のPDI社ではP226R型の『官公庁向け訓練用』も製造しており、警察のみならず、海自へ納入されていても不思議ではないでしょう。自衛隊の次期拳銃についてはすでに『H&K SFP9』の導入が決定されており、陸自を中心に配備が進められていますが、SBUでも配備される可能性があるでしょう。
SBUの配備する小銃は早い時期から米軍制式小銃のM4と指摘されており、当時その出典は複数あったが、そのひとつには著名な戦場劇画家の小林源文氏のweb上での発言があります。「俺は裏から流れた映像に写真は見たよw」、「拡大した写真では米軍のM4を持ってる日本版シールが見える」と同氏がコメントしており、特別警備隊がM4(HK416の元となったコルト社のオリジナル)を配備していることに言及しています。
さらに、防衛省の公開した公告に「H&K製HK416」の名称があることから裏付けが取れています。
しかし、装備品はこれだけに留まらないようで、さらに防衛省が自ら公開している海自の装備品調達に関する公開文書には「H&K製MSG-90」の名称も。それに拠れば、株式会社JALUX経由でHeckler & Koch社のHK416およびMSG-90を取得したと想起させる記載があります。株式会社JALUXといえば、双日グループの商社。女子高生向けコンビニスイーツをヒットさせたことが知られていますが、実は同社はHeckler & Koch社の日本総代理店でもある。なお、MSG-90についてはアジア太平洋企業という企業が輸入している可能性もあります。
“特殊部隊での私物着用”は諸外国ではポピュラーですが、SBUでは装具の統一感は強め。同じ海自の『立入検査隊』、陸自では『水陸機動団』においては隊員の私物着用が比較的多いと指摘されており、各個人によってはゴーグルやブーツなどに違いが見られます。
SBUまとめ
いまだ断片しか情報はないものの、2024年現在も国内外の軍事組織、不穏分子やマニアなどから海上自衛隊特別警備隊への注目は止みません。平成24年7月11日には防衛省男女共同参加推進本部の決定により、それまで防衛省の母性保護政策によって一部部隊や危険性の高い職種において女性自衛官の配置制限が行われていた措置が緩和されています。さらに2016年3月15日、防衛省が女性の活躍推進の一環として女性自衛官の配置制限を緩和。陸上自衛隊の攻撃ヘリパイロットのほか、海上自衛隊特別警備隊への起用を発表しています。産経新聞社の報道によると、訓練を経て2017年度以降に配置(任用)が始まるとしており、すでに特別警備隊に女性隊員が配属されている可能性も否定できません。
- 特別警備隊SBUは海上自衛隊の特殊部隊。その創設は陸自の特殊作戦群より早い。
- 装備は89式のほか、MP5、HK416、MSG-90、P226Rなど一般隊員の装備とは異なる。
- 2016年3月、防衛省は母性保護政策を緩和し、SBUへの女性自衛官配置を解禁
- 徽章がコウモリとサソリ。超怖い。
いずれにせよ、日本版シールズも時代の趨勢から今後は国内外での作戦展開を繰り広げる可能性が高まっています。しかし、中東某国の砂漠地帯でSBUの女性自衛官が持つHK416が砂を咬みながらも、TOYOTAの軽装甲ピックアップに乗った黒覆面のテロリストたちを猛烈にプスプスとピアッシングし、人質となった日本大使館職員や現地スタッフ、同盟国の人々を華々しく救出し「忘れなさい。私たちは存在しないのよ」などと呟いて、いずも型護衛艦で便所掃除しながら帰国するなんてことが実際に起きないことを心から願うばかり。今後も引き続き、変わらずの平和を希求することでこの記事を終えたいと思います。
画像の出典 Korea Defense Blog リムパック2022に参加する日本の海自および米韓独印海軍の特殊部隊