9mm拳銃は1982年に11.4mm拳銃から更新され、現在まで制式配備が続く陸海空自衛隊共通の装備品だ。
それまで3自衛隊では長らく米軍から供与された11.4mm拳銃(M1911)を配備していたが、1982年にその後継としてP220のライセンス生産を決定した。
配備から38年となる2020年、ついに後継モデルを選ぶ新型制式拳銃トライアルの結果、H&K SFP9(VP9)に後継が決定されたが、現行配備の9mm拳銃のすべてがSFP9に更新されるまで、しばらくは時間がかかりそうだ。
9mm拳銃のオリジナルはシグ・ザウエルP220で、長らくミネベアの東京都大田区内にある「ミネベア大森工場」にてライセンス製造されていた。2012年からは松井田工場(群馬県安中市松井田町)に警察と自衛隊向けの銃器用ファクトリーを新設し、同所が製造を担っている。
弾薬は9mm普通弾を使用し、装弾数は9発。発射方式はセミオート。単列弾倉のため、複列弾倉が主流の現代オートに比べ装弾数は少ない。
貸与されるのは砲手、幹部、航空機操縦士および搭乗員、警務官などの隊員に限られるが、陸上自衛隊では近年、前述の職種や幹部以外への配備が増え、閉所戦闘訓練などで普通科の曹士隊員が使用することも増えた。
また海上自衛隊では立入検査隊、航空自衛隊では基地警備隊や基地警備教導隊に配備されている。
一方で、陸上自衛隊の特殊作戦群では複列弾倉で装弾数の多いUSPタクティカル、海上自衛隊の特別警備隊では、同じく多弾数のP226Rを独自に配備しており、より実戦を意識している。
SPEAR HEAD (スピアヘッド) No.16 2013年 05月号
オリジナル版P220と比較すると、スライドに製造会社と自衛隊装備品を示す桜の刻印が配されるほか、銃の木製ストック製造メーカーであった当時の田中木工(現在はエアガンメーカーのタナカワークスとして有名)が日本人向けにデザインしたグリップなど特徴がある。
P220はマニュアルセイフティ(手動式安全装置)を備えない代わりに、起こしたハンマーを安全位置にハンマーダウンさせるためのデコッキング機能を備える。これは我が国でライセンス生産される9mm拳銃も同様だ。
手動式の安全装置をあえて搭載せず、デコッキングレバーによるハンマーダウンをセイフティの代わりとする方法はダブルアクションでの射撃が前提となっているかどうかはともかく、米国のNYPD(ニューヨーク市警)では同じくマニュアルセイフティの備わっていない(トリガーセフティは有す)グロック19拳銃を制式に配備しており、わざとトリガープル(引き金の重さ)を強くして暴発事故を防止している。
近年では日本もグロック17を警視庁SPに、グロック19をSAT用として配備するが、マニュアルセフティを備えない銃を嫌悪しているアメリカの保守的な層は昔ながらのM1911系やS&WのM39系を選択している。
自衛隊のホルスター
ホルスターは拳銃を収納するためのもので、自衛隊で長らく官給品として広く支給されているタイプは腰に装着するヒップホルスタータイプのフタつき皮製ホルスターだ。
一般隊員用は茶色、警務隊員用には黒色タイプが配備されている。この皮製ホルスターは軍用としては時代遅れとなり、陸上自衛隊でもイラク派遣からは米軍同様、太ももに装着する強靭な合成繊維製のレッグホルスターを配備した。
SIG SAUER P226R……汎用20mmレイルを装備した拳銃
3自衛隊のうち、海上自衛隊特別警備隊では9mm拳銃のP220ではなく、P226Rを使用している。
海上自衛隊特殊部隊が公開訓練で自ら公にし、広く認知された『P226R』はアンダーマウントレイルにフラッシュライトやレーザーサイトを装着できるため、建物や艦艇内など、閉所での作戦を意識したモデルだ。
P226RはP226として1983年に発売されたショートリコイル方式のセミ・オートピストルだ。警察や軍隊向けに製造された前作、一般的な拳銃に備わっている手動安全装置(マニュアルセイフティ)が廃止され、それに代わるものとしてコックしたハンマーを安全に倒すデコッキングレバーを搭載し、特徴的な操作方法を持つP220の信頼性を踏襲しつつ、ダブルカラムの多弾数に改良発展させている。
高性能、高品質のため、高価格がネックだが、軍隊ではイギリス軍特殊部隊SASやアメリカ海軍特殊部隊Navy SEALsなど、また全米各地の警察にも採用されているベストセラー製品だ。日本国内では海上自衛隊特殊部隊のほか、警視庁や神奈川県警SAT、海上保安庁特殊部隊で配備されている。
P226は近年、細部が改良され、フレーム下部にレイルを配し、さらにグリップの形状を一体化し、より使いやすい人間工学的デザインに仕立てられたモデルを「E2」としてリリースされ、P226の現行モデルとなっている。
なお、海上自衛隊特殊部隊では普段、実銃のP226Rのほか、和歌山県のPDIというエアガン改造部品メーカーが開発した訓練用のP226(ペイントボール発射タイプ)を用いて密かに訓練を行っている。
先述のとおり、防衛省では2020年にH&K SFP9の配備を決定し、将来的に現行の9mm拳銃から置き換える計画だ。なお、ドイツの一部メディアの報道や日本国内での目撃例から、自衛隊とは別に警察庁でも2,000丁のSFP9が配備されたと見られている。数千丁単位の銃器を警察と自衛隊で共通化を行うのは、きわめて異例と見られている。