第1空挺団は陸上自衛隊唯一の機動運用部隊として空中機動作戦でのヘリボーンおよび空挺侵攻を遂行する、陸上総隊隷下の精強な落下傘部隊だ。
全国の陸自の普通科が最大でも「中隊」規模で編成されるのに対し、第1空挺団は3個普通科大隊となっている。
第1空挺団員は陸上自衛隊でも最精鋭とされ、一般隊員を遥かに超越した身体能力で取得した空挺バッジとレンジャーバッジ、それに特別な死生観を持っているのだ。
第1空挺団では習志野演習場にて毎年1月に降下訓練始めを行っており、航空自衛隊のC-1輸送機、C-130輸送機や、同じく陸上総隊隷下の第1ヘリ団に配備される大型ヘリコプターCH-47から完全武装での落下傘降下が公開される。
また、正規軍相手はもちろんのこと、不正規戦、いわゆるゲリラ・コマンドゥ攻撃の対処も第1空挺団の任務だ。
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東部方面隊から独立した陸上総隊の隷下へ
2007年(平成19年)3月、第1空挺団はそれまでの関東地方・甲信越地方および静岡県の防衛警備を担任する東部方面隊所属から、ナワバリにとらわれずに日本全国を警備する事を認められた中央即応集団隷下に編成替えとなっている。中央即応集団は2018年4月に陸上総隊に新編された。
第1空挺団の部隊編成
第1空挺団は特殊部隊の「特殊作戦群」も根城にする千葉県習志野駐屯地に駐屯しており、1個普通科群、1個特科(とっか)大隊、対戦車隊などの直轄部隊および、教育部隊である空挺教育隊の8個部隊からなり、全体で約1500名の隊員で構成されている。
第1空挺団と中央即応連隊の違い
両部隊とも陸上総隊に所属するエリート部隊だが、第1空挺団は主力隊員が空挺レンジャー資格を持ち、国内有事が生起した際の緊急展開部隊として空中機動作戦が主任務である。対して中央即応連隊では緊急展開および国際活動先遣が任務となる。また、部隊規模は空挺団が2000名、中央即応連隊が700名。両部隊は有事の際、連携しながら作戦を遂行する。
第1空挺団に配備される装備品
第1空挺団員に支給される小銃は折曲銃床型89式小銃だ。折曲銃床とは銃床を畳むことでできるもので、装甲車などに搭乗する際、携行しやすいように工夫されたモデルだ。陸自では第1空挺団と機甲科の戦車乗員にしか配備されていない特別なモデルなのだ。
ほかに9mm拳銃、9mm機関拳銃、M24SWS対人狙撃銃、ミニミを個人携行火器としているほか、対戦車用の無反動砲、携帯式対戦車ミサイル、それに迫撃砲など大型の武器も配備する。2020年に陸自で制式化され、21年から部隊使用が承認された20式小銃も第1空挺団で優先配備される。
火器以外ではITT社製のAN/PVS-14をライセンス生産した暗視装置、いわゆるナイトビジョンがある。防護装備では防弾盾を配備。第1空挺団員はこれらの装備の扱いに熟知している。
第1空挺団の中に編成されていた誘導隊
第1空挺団は災害派遣にも即応できる態勢を整えている一方で、かつて海外で紛争が生起した際、在外邦人輸送に際して避難誘導するための”陸上自衛隊誘導隊”が編成されていた。1999年に第1空挺団の中に編成された誘導隊は海外の紛争地で日本人が取り残された際、政府専用機などで派遣する計画があった。政府専用機を使って誘導隊が現地の邦人を避難させる際に使う”秘密装備”はこちらで解説しています。
身長175センチ以上で、眉毛を剃り上げて威圧感を出した隊員が、89式小銃の銃口を水平ではなく真上に向けて盾を構える姿は「俺らは戦争に来たんじゃない。守りに来たんだぜタリバン」という日本国自衛隊特有の専守防衛という美学を感じさせたのだ。現在は中央即応連隊に「誘導輸送隊」として再編されており、2021年8月にアフガニスタンへ派遣され、現地邦人の救出作戦を遂行した。
空挺教育隊で行われる空挺レンジャー教育課程
自衛隊には大規模な「レンジャー部隊」は常設されていない。しかし、構成隊員のほぼ全てが「レンジャー資格者」である第1空挺団は実質的にレンジャー部隊であると言っても過言ではない。隊員は空挺レンジャー課程などを履修し、それぞれの任務に必要な能力を身に付けるよう日夜訓練に励んでいる。
陸上自衛隊には各部隊が行っている部隊集合教育として、各種のレンジャー教育があるが、そのレンジャー教育の中でも最も苛酷と言われるのが第1空挺団の中に編成されている空挺教育隊が行う「空挺レンジャー課程」だ。
同課程では幹部と曹が合同で教育を受けているほか、海上自衛隊の特殊部隊も訓練を受ける。なお、士に限っては他の部隊でのレンジャー課程を卒業しても、第1空挺団ではレンジャー資格者とは認められず、空挺レンジャーを新たに履修する必要がある。
同駐屯地に設置された高さ83メートルの降下訓練塔「落下傘訓練塔」では、隊員が落下傘降下の基本訓練を行う。航空自衛隊の航空学生(パイロットの卵)も、塔からパラシュート降下の疑似体験を行っている。
実際のパラシュート降下訓練では「自由降下傘」や「ひとにいさん」というフランス製の「696MI」というモデルを日本のメーカーがライセンス生産した落下傘を背負って輸送機や大型へリから降下する。
東京タワーの高さから新幹線と同じ速度で輸送機から飛び出す。
隠密降下では6000メートル上空の輸送機から降下する。降下訓練では過去、これまでに4名の殉職隊員が出ているため、降下前には全員が遺書を書く習わしになっているのも第1空挺団の特別な伝統だ。
第1空挺団の空中機動展開のひとつ『ヘリボーン』とは
空中機動展開を遂行する第1空挺団は、主としてパラシュートを使った空挺降下、またはヘリボーンによる侵攻を行う。
このうち、ヘリボーンとはパラシュートを使わず、ヘリの着陸と同時に隊員が降機、またはリペリングと呼ばれるロープ降下でホバリング中のヘリから隊員が地上へ降下する展開手段である。
パラシュート降下による展開に比べ、より局地的に隊員を送り込める一方で、固定翼機やオスプレイなどより速度が遅く、遠方への進出が難しいヘリは地上から狙われやすく、撃墜されやすい弱点がある。
一方、任務完了後の撤収離脱時には大型ヘリからエクストラクションロープと呼ばれる高弾力性のロープに隊員が吊り下げられ、そのまま機内に収容せず迅速に離脱することで被弾率を下げている。
第1空挺団に入るには?
空挺隊員にとって肉体と知能も平均隊員以上の優等が要求される。また、空挺訓練生になるためには下記のような厳しい選考基準が設けられている。
- 陸曹が36歳未満、陸士が28歳未満。
- 知能・性格・作業素質・職業適性の各検査に適性があること。
- 体力検定は一般が5級以上
- 身長161cm以上、体重49kg以上、胸囲78.5cm以上
陸上自衛隊第1空挺団を扱った映画
実在する「第1空挺団」ではなく、架空の部隊である「第八空挺部隊」を描いた、その名も『第八空挺部隊 壮烈鬼隊長』という映画が1963年に東映の配給で公開されている。衛生職種の女性自衛官も登場する。
ほかにも自衛隊全面協力の作品「右向け左!」という自衛隊コメディ映画でも「第1空挺団」の訓練シーンを再現しており、装備は本物で実際の隊員もエキストラで登場。輸送機からの降下シーンは必見だ。
第1空挺団出身の有名漫画家
『グラップラー刃牙』(グラップラーバキ)などで知られる漫画家の板垣恵介氏は元陸上自衛官、それも第1空挺団に5年間所属された経歴を持ち、著作には自身の自衛官時代を描いた作品もある。
檄! (ソフトカバー)によれば「先生と出逢い、少林寺拳法を始めていなければ、絶対に自衛隊に入っていない。自衛隊に入っていなければ、空挺に進むことがなかった。空挺に行ってないということは漫画家にもなっていない。」とのことで、第1空挺団での経験が氏のマインドに多大なる影響を与えたことを伺わせる。
第1空挺団まとめ
2020年には女性初となる第1空挺団員も誕生している。
- 第1空挺団は陸上総隊隷下の精鋭集団である。
- あの人たち3階から飛び降りて自販機でドデカミン買ってたよ、怖いね……
- 主に空挺侵攻を行い、落下傘で敵部隊の背後に浸透する。
- 主力隊員の全員がレンジャー資格者であり、第1空挺団は実質的に「レンジャー部隊」と言っても過言ではない。
- 第1空挺団は特殊部隊ではないが、陸自の特殊部隊「特殊作戦群」隊員の出身母体でもある。
- 空挺ストック仕様の89式が精鋭の証!