誰も近づけない見晴らしの良い山頂にはハイテク機器と数百人の人員、そして謎の超巨大ゴルフボール……!全国28カ所で全力で目を光らせる、知られざる空自の秘密施設『レーダーサイト』とは
登山やハイキングで山に登った際、たまに山頂上にそびえたつ白いドーム状の建造物を目撃してしまう場合があります。まるでゴルフボールのような形をしたこの建造物。実は「レーダーサイト」と呼ばれる航空自衛隊の施設です。
レーダーサイトの多くはその必要性から見晴らしの良い山頂(一等三角点の場合もある)に設置され、まさに『わが国の主権を侵害する行為に対する措置』を実施する航空自衛隊の最前線とも言うべき存在。その役割を詳しく見ていきましょう。
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防空指令所(DC)と連携して対領空侵犯措置を担う
レーダーサイトを管理運用するのは航空自衛隊航空警戒管制団の警戒管制隊。レーダーサイトは稚内から沖縄宮古島まで、全国28箇所が設置され、日本周辺を飛行する航空機や大陸間弾道ミサイルの監視など、いわゆる要撃管制に関する業務が主な任務となっており、日本の四方を絶え間なく見張っています。
我が国の領空を侵犯する可能性がある航空機(彼我不明機という)を確認した場合、必要に応じて対領空侵犯措置、いわゆるスクランブルが発令され、戦闘航空団(ロシア機に対処する北海道なら千歳基地の第2航空団、青森県三沢市の第3航空団が担任する)から戦闘機が離陸。
スクランブルにおいては防空指令所(Direction Center:DC)がレーダーサイトと協力しながら要撃戦闘機に対する目標までのコース指示など要撃管制を行います。
一方、そのロケーションの良さを活かし、外国の各種無線の傍受など知られざる任務も。
例えば北朝鮮から日本国内の工作員へ向けてHF帯の周波数で発射される短波無線による暗号指令。これらは防衛省情報本部で解析され、明日降ってくるミサイルの予測にも役立てられています。知られざる諜報活動は以下のページで詳しくご紹介。
なお、海上自衛隊でもレーダーを用いて監視をする「警備所」が全国にあり、こちらの任務は海上を行き交う船舶の監視となっています。
レーダーサイトはゴルフボール”から”カメの甲羅”へ?
レーダーサイトの象徴とも言えるのが、”ゴルフボール”型の球形三次元ドーム・レーダー。現在配備されている球形レーダーにはJ/FPS-2、J/FPS-3、J/FPS-4があるほか、さらに高性能のJ/FPS-5も配備されています。J/FPS-5は建屋から3面それぞれに飛び出したレドーム部の形状がユニークな亀甲模様をしており、俗称で”ガメラレーダー”とも呼ばれています。
日本が開発した防空用固定式警戒管制レーダーJ/FPS-5は、弾道ミサイルや、いわゆるステルス機も補足できる超高性能レーダーで、我が国のミサイル防衛構想であるMDシステムの一翼を担っています。
ただし、一基あたりの設置費用が100億円以上と高額で、配備は打ち切りとなっています。今後しばらくはJ/FPS-2およびJ/FPS-3が継続運用されますが、後継のJ/FPS-7の開発も進められています。
山の頂上で気が抜けない24時間態勢の空域監視はまさに最前線
山の上のレーダーサイトは静謐で空気の良い(薄い)高原の別荘地に思え、牧歌的なアルプスの少女的生活に映るかもしれません。しかし、これが北海道や東北、日本海側など、豪雪地域の冬場なら苛酷な環境と言えるでしょう。
航空自衛隊北部航空警戒管制団第45警戒群が分屯している北海道当別町の当別分屯基地では、実に百人以上もの人員が配置されています。
雪国の厳しい環境下にある当地での勤務はときに命がけ。部外者の通れない敷地内からサイトに通じる道路までの除雪は航空施設隊の自前作業です。過去にはあるレーダーサイトで、防衛道路の除雪作業において車両ごと谷へ転落するなどして、2名の殉職者が発生しています。
もともと当別分屯基地は昭和29年に米国空軍が開設したレーダーサイトでしたが、当時米兵と軍属が240名ほど居住しており、当別の街はだいぶ活気づいていたそうです。その後、昭和34年にレーダーと兵舎2棟が自衛隊に移管され、米空軍は撤退。
勤務する隊員たちはサイトの分屯基地内に併設している宿舎で寝起きします。レーダーサイトでは電源が確保できなければレーダー装置を作動させることができず、このため、サイトではいかなる時も電源喪失に陥らないよう、非常用電源の確保も万全。
また、道内では奥尻島に奥尻分屯基地があり、山頂にレーダーサイトが設置されている。島へはCH-47Jによる物資輸送が行われ、隊員への物資補給が欠かせなません。
レーダーサイトは諸職種が混成
レーダーサイトと一言で言っても、総務、人事、その他基地全般に関わる事務を行う群本部や、メイン部隊の監視管制隊、それにレーダーを保守整備する通信電子隊などなど、諸科混成です。また、レーダーサイトの警備は基地警備隊員と、他職種の隊員による当番制。
さらに補給、施設、車両、警備、厚生、給食、会計、消防、除雪などといった、サイト運営に関するあらゆる任務を遂行するための「何でも屋」である業務隊。日々、隊員の腹を満たすのも彼らの仕事です。福岡と佐賀の県境の山頂に位置する背振山分屯基地は元自衛官で漫画原作者の武論尊(史村翔)氏が勤務した部隊としても知られていますが、隊員はやはり九州出身者が多く、毎日の食事はできれば郷土の料理が食べたいとの声が多いことから、同サイトの隊員食堂では給養隊員が日々その声に応えているそう。そのなかでも、佐賀の郷土料理とも言える「シシリアンライス」が人気。これはメシの上に生野菜と、いためた牛肉を載せた料理で、佐賀県の喫茶店ではド定番。無論、隊員にアキが来ないようにアレンジもしています。
そして、航空自衛隊ではからあげに異常なこだわりを持っており、空自の部内ではからあげを、より上を目指すという意味というか願いを込めて『空上げ』を呼称するなど独特の価値観を持っているそうです。このため、各基地および各分屯基地ではご当地版「空上げ(からあげ)」が出てくるのです。
前述の北海道の当別分屯基地でも『当別空上げ』があります。同じく道内の長沼分屯基地(地対空ミサイル部隊)の『長沼空上げ』はジンギスカン風味。青森の車力分屯基地の『車力空上げ』では、やはり摩り下ろしたリンゴをソースに使うなどご当地ならではのアイデアが光ります。
レーダーサイトには幹部の要撃管制員と曹士の警戒管制員が配置されていますが、当然、隊員は航空自衛隊の中でも高い状況判断能力と機密保持能力を持つ者が選ばれます。航空自衛隊の職種でも戦闘機パイロット同様、最前線。希望者の倍率は高く、なれるのは一握りの適格者だけ。僻地手当てもあるよ。レーダーサイトと一言で言っても、いろんな役割を持つ部隊がそれぞれ配置され、メシも特色があるわけ。どの部隊もサイト運営には欠かせないんだね。唐突に飯の話をするのはやめなさい。みんな引いてるよ。
航空自衛隊の分屯基地(Sub air base)の種類
ここで、レーダーサイトが設置される航空自衛隊の分屯基地について、おさらい。
航空自衛隊の分屯基地(Sub air base)には主にレーダーサイトと、地対空ミサイル基地の二つがあります。レーダーサイトでは主に日本の領空に近づく外国機、大陸間弾道ミサイルの監視、外国の無線傍受が任務です。一方、地対空ミサイルが配備されている分屯基地は航空自衛隊の基地や施設を敵の航空機や大陸間弾道ミサイルから防空するのが任務。
通常、これらの分屯基地は基地に比べて敷地はそう広くなく、固定翼機の離着陸も不要なため、ヘリポートのみ。しかし、北海道の八雲分屯基地だけは航空自衛隊で唯一滑走路を有しており『八雲飛行場』があります。滑走路は長さ1800メートルと、基地の滑走路と比べてそん色なく、大型ジェット輸送機も離着陸可能です。95年に函館空港で起きたハイジャック事件で、警視庁のSAP(SATの前身部隊)隊員を秘密裏に函館空港に展開させるため、空自のC-1輸送機が八雲に降り立ったという逸話もあります。
八雲飛行場はバトルオーバー北海道が起きた際に代替滑走路として使用されることを想定しているほか、民間機の緊急着陸の際にも使用が想定されているんだよコナン君。室蘭の崎守埠頭より、八雲のほうが良かったのでは。
つまり、基地も分屯基地のどちらも航空自衛隊の任務上、重要な施設であり、欠かすことができないのというわけです。
警戒管制員も空を飛ぶ!空飛ぶ管制室、E-2Cホークアイ&AWACS
実はレーダーサイトで活躍する警戒管制員は地上以外でも勤務します。それが空中警戒管制機(E-767:AWACS)や早期警戒機(E-2C:AEW)の搭乗員。警戒管制員は適性、健康状態、能力等を満たせば、”空飛ぶレーダー基地”での勤務も可能。また、AWACSには女性乗組員も存在する。フォトジャーナリスト・宮嶋茂樹さんの「空飛ぶ大和撫子」がおすすめ。
航空自衛隊では地上のレーダーサイトとは別に、各部隊が味方の戦闘機に対する管制を行うレーダを載せた航空機を用いて、広大な空域をそれぞれ警戒監視しています。
米軍のグラマンE-2Cホークアイは昭和62年度より航空自衛隊でも”実戦配備”されています。4時間程度の哨戒飛行が可能で、地上や海上のレーダーでは発見できない遠距離目標を空の上から補足できる能力を持っています。
さらに、250もの目標を同時に追尾して30の目標を友軍機に要撃管制することも可能。胴体の上には大きな円盤型レーダーが搭載され、毎分6回転して360度をカバーし、最大で500キロ以上も離れた遠距離を飛ぶ航空機を発見できます。E-2Cホークアイはパイロットとコパイ、そして電子システム担当のレーダー手の5名クルーで運用されています。
低空侵入機の早期発見は重要な任務ですが、自衛隊の歴史の中でも汚点となったソ連空軍軍人による函館空港ミグ強行着陸がE-2Cホークアイの導入理由となっています。さらに捜索・救難においても活躍し、通信の中継なども行います。E-2Cホークアイは配備から30年が経ち、防衛省では新たにE-2Dアドバンスド・ホークアイの導入を決定しています。
さらに高性能!早期警戒管制機 AWACS エーワックス
E-2Cホークアイも要撃管制可能でが、その能力は限定的。平成12年からは新型の「早期警戒管制機」として日本の空の目を担う、超高性能レーダー機E-767、通称AWACSが配備されましたが、本機は敵機を機上レーダーで捕捉、さらに味方の迎撃機の誘導(要撃管制)機能がより強化され、機体を大型化かつジェット化したことにより、乗員の負担を軽減し長時間の哨戒任務を可能にしています。
E-767 AWACSにも約10秒で一回転する皿型レーダー・アンテナを載せています。レーダーは地上で電波を発射することは法令で許されないほど強力。そのため、AWACSには強烈な電波から乗員を防護する目的でコックピット以外に窓がありません。強い電磁波の影響で乗員の子息が将来女の子ばかりになってはたまりません。アマチュア無線家かよ……。
なお、安全な自軍の制空域でのレーダー監視が任務であり、戦闘空域での飛行は考慮されないため、固定武装はなく、有事では護衛機が随伴。
長時間のフライトでは当然、乗員の食事も空の上で機上食だが、乗員にはレトルトタイプや弁当の食事が配給されています。密閉された4万フィートの上空で電子機器に囲まれつつ牛丼を食べるのも、山の上のゴルフボールのようにシュール。
なお、AWACSは空中目標のみを補足する空飛ぶレーダーだが、アメリカ軍には地上の車両などを補足することが任務のE-8 J-STARS(Joint Surface Target Attack Radar System ジョイントスターズ)も配備しています。
レーダーサイトのまとめ
- レーダーサイトは航空自衛隊の分屯基地。任務は外国の航空機や弾道ミサイルの監視と無線の傍受
- レーダーサイトが未確認飛行物体を捉えれば直ちに要撃機がスクランブル発進、要撃管制も行う
- レーダーサイトは侵犯機に対して国際緊急周波数による警告通信を行う
- レーダーサイトは機密性が高く、一般公開されても敷地内での撮影は禁じられる
- レーダーサイトには任務ごとに各種部隊が配置される
- レーダーサイトの警備は空自の基地警備隊および他職種の隊員が当番制で行う
- レーダーサイトのごはんは美味しい
- レーダーサイトの警戒監視によって日本の空は24時守られている
年に一回、開庁記念日に一般の人も見学できる場合がありますが、行われない年度も。機密のカタマリである自衛隊レーダーサイトは、レドームそのものから全景まで写真撮影を制限される場合があります。
参考文献
日本防衛秘録/守屋武昌、MAMOR 2013年5月号
なお、スクランブル任務については以下のページにて解説しています。