外国機による領空侵犯に対処する航空自衛隊のスクランブル任務とは



スクランブル(scramble)とは主に外国の航空機による国際法に違反するような領空侵犯および、領空侵犯のおそれに対する「対領空侵犯措置」のための航空自衛隊要撃戦闘機による緊急発進を指す。

日本の空は24時間、航空自衛隊のレーダーサイトや、早期警戒機、さらには情報収集衛星によって絶え間なく監視されていることはレーダーサイトの記事でもお伝えしたとおりだ。

航空自衛隊のレーダーサイトは全国28カ所で領空侵犯機に目を光らせる

しかし、近年では周辺諸国との緊張の高まりから、航空自衛隊のスクランブルは多発傾向だ。

ひとたび領空侵犯が発生すると、真夜中や吹雪であってもエンジンに火を入れて漆黒の空へと飛び立つスクランブルだが、さらに緊急性の高い「ホットスクランブル」もある。

北海道の防空を担う第2航空団(千歳)では主にロシア機への対処が多く、必要に応じて三沢基地の第3航空団からも戦闘機がスクランブル発進している。一方で、九州沖縄の西方上空では中国軍機が活発になっており、空自では警戒を強めている。

対領空侵犯措置の法的根拠は

自衛隊法第84条(領空侵犯に対する措置)は以下のとおりだ。

第84条(領空侵犯に対する措置)
長官は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。

つまり外国航空機への退去行動はこの84条が根拠となっているのだ。

防空識別圏と領空侵犯、その対処方法

航空自衛隊では防空のための作戦も定められている。具体的には以下に示すとおりだ。


航空侵犯に対しては、「侵入する航空機の発見」「発見した航空機の識別」「敵の航空機に対する要撃(来襲する空中目標を撃破するため、戦闘機を発進させまたは地対空誘導弾を発射させること)・撃破」といった防空のための作戦が遂行されます。

引用元 航空自衛隊公式サイト
http://www.mod.go.jp/asdf/about/role/bouei/

日本の防空識別圏は1945年にGHQが制定した空域をほぼそのまま使用しており、航空自衛隊の対領空侵犯措置の実施空域に800px-Japan_Air_Self_Defense_Force_F-15指定している。しかし、これは日本の領空の範囲を示しているわけではないことに留意が必要だ。防空識別圏を超えて周辺国軍の戦闘機や爆撃機が日本に対して威嚇因縁をつけに来る行為を領空侵犯と呼び、国籍などの不明な航空機を彼我不明機(ひがふめいき)と呼ぶが、威嚇などの悪意か、単なるコースの間違いかはレーダーで当該機の航跡を辿ればすぐに判明する。領空侵犯機に対しては、まずスクランブル発進した戦闘機が接近し、当該機が軍用機か民間機か、韓国が飛ばしたチョコパイと宣伝ビラ付きの気球か、北朝鮮の時限タイマー付きサリン気球か、宇宙人のUFOか、パイロットが目視で詳しく確認する必要がある。

そして、レーダサイトおよび戦闘機が直接、国際緊急周波数(ガードチャンネル)で「貴機は日本の領空を侵犯しようとしている。進路を変更せよ」と周辺の国の複数の言語で呼びかけて警告を行うのだ。

HUDを通して見た空中戦の世界。

しかし、侵犯機が自衛隊機の警告を無視して侵犯を続けるならば、航空自衛隊の対領空侵犯措置行動はさらに過激になり、追い払いではもう許してはくれず、実弾発射の信号射撃による警告や、日本の基地へ強制着陸をさせられる手はずになっているのだ。

過去の領空侵犯事件では1987年に領空侵犯を行ったソ連機に対し、航空自衛隊の戦闘機が実際に20mm機関砲M-61A1の発射による信号射撃警告を行った例もある。

単なる脅しのつもりが、厳しい訓練で男性ホルモンが多く、喧嘩っ早い戦闘機パイロット同士、些細な挑発から根っからの勝利至上主義のオラオラ節に火がついて本気の喧嘩モードになり、取り返しのつかないことになるため、自衛隊では日本国憲法に則って、とくに慎重に対処しているのが実情だ。

そのため、自衛隊が後に「悪質」と公式表明したこのソ連機侵犯事件でも撃墜は行わず、アメリカ政府にその慎重な対応を高く評価されている。

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航空自衛隊の公式サイトから引用した上記イラストは、日本の航空自衛隊における防空作戦の例。

上記の図中にある「CAP」とはCombat Air Patrol、日本語で戦闘空中哨戒あるいは空中警戒待機と呼び、対象航空機の接近に対し、速やかに対処できるようにスクランブル用の戦闘機を事前に上空待機させておく戦術だ。Combat Air Patrolの態勢では戦闘機が効率的に空中警戒を行えるよう、滞空時間を伸ばすための空中給油機も必要になる。

図中では戦闘機のみならず、敵機の攻撃から基地を守るため地対空誘導弾を配備する高射(ミサイル)部隊も連携して動いているのがわかる。

このように領空侵犯事案が発生すると、第一義的に航空自衛隊が対処する手はずになっており、スクランブルがかかると、各部隊がそれぞれ警戒体制に入る。

領空侵犯機はどのような航空機か?

北方空域と南西空域の防空

北方空域ではロシア軍の航空機による領空侵犯、また南西空域においては中国空軍機による恣意的、挑発的な領空侵犯が相次いでおり、近年では国籍不明の無人機と見られる航空機の問題も起きている。

過去、航空自衛隊が公表している領空侵犯事件の資料によると、侵犯機には戦闘機のほか大型の爆撃機、それに情報収集活動を行う電子戦機などが日本周辺へ飛来している。とくに「Tu-95」と呼ばれるロシアの大型の戦略爆撃機、さらには電子偵察機は日本列島付近を「パトロール」と称して威嚇的に周回し、自衛隊や在日米軍を挑発しつつ、その対応能力や無線通信などの情報を常日頃から収集している。

航空自衛隊によるスクランブル発進の代表的な事例であった70年代の”東京急行 “でおなじみ、Tu-95の尾部機関砲。通常、尾部機関砲は上向きでロックされており、インターセプトされても、ヘタに動かさず「戦意は無い」ことを表明するという”仁義”らしき国際マナーもある。この尾部機関砲には冷戦中の面白い話がある。迎撃に上がった米軍要撃機のパイロットに対し、ソ連機の尾部機銃手(ガナー)が嬉しそうにピースサインをしたり、コーラの缶を見せたりしていた。米軍が撮影したそれらの写真は当時、日本の雑誌にも掲載されたが、空自機には「平和」と漢字で大きく書いた紙を見せたこともあるという。現代の大型爆撃機では尾部銃座はことごとく廃止されており、Tu-95の尾部銃座にも人員削減でもはや乗員はいないとか、遠隔操作式になったなどの話も聞くが、冷戦時代の思わず頬が緩むような逸話だ。

ロシアが去れば、中国がやって来る。こちらは航空自衛隊の邀撃機が撮影した中国空軍のH-6戦略爆撃機だ。H-6は巡航ミサイルや爆弾、機雷なども投下できる多目的戦略爆撃機で、日本国の脅威となっている。中国軍が日本を侵略する際、離島に自衛隊があらかじめ仕掛けておいた地雷をH-6は燃料気化爆弾で効率よく破壊してしまう。

このような外国軍機は私たちが寝ている間も絶え間なく、日本を盗ろうと列島を威嚇的に飛行しており、その対処に航空自衛隊は24時間気を休めることはできない。

“5分待機”のアラート任務とアラートハンガー

領空侵犯による突然のスクランブル(緊急発進)に備えるため、要撃戦闘機は滑走路のすぐ近くに設けられているアラートハンガーと呼ばれる格納庫で機関砲に実弾を装填し、ミサイルを翼に吊り下げ、いつでも飛び立てる状態で24時間待機している。

要撃戦闘機のパイロットももちろん、ハンガーに併設された待機室に交代で24時間詰めている。この待機状態をアラート任務と言う。

3度の食事も食堂から車で運ばれ、パイロットは缶詰状態になりながら、テレビを見たり漫画を読んだり、時には腕立て伏せをしたりなどして男性ホルモンであるテストステロンを増やし、最前線の兵士としての闘志を養いながら思い思いのことをして過ごすのだ。生理学上はテストステロンの分泌が多いほど、闘争心旺盛であるとされている。

そしてひとたび、スクランブル発進のアラームが鳴り響けば、パイロットたちは即座に格納庫へ走り、F-15にかけられたラダー(梯子)を駆け上がり、5分以内に飛び立つ。

ロシア機対処のため、千歳基地から飛び立ったF-15の場合、札幌市を越え石狩湾上空に抜けると、20mmバルカン砲をやにわに試射し、コンバットopenに向けて手際よく準備を開始する。

しかし、航空祭でのスクランブル発進実演展示では、外国に手の内を明かすことを避けるため、わざと時間をかけてノロノロと手際悪く発進しているのが恒例だ。なんちゃって。

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