自衛隊では曹士隊員が営内に居住する限り、食事は無料だ。もちろん自衛隊といえど役所。決められた予算のなかで技官の栄養士がカロリーと栄養バランスを重視しての献立となる。
見た目は随分と「質素」にも見える。陸上自衛隊では隊員一人当たりの一日の食費は850円。
ハチゴーマルはちょっときついんじゃない?あくまでモテない一人暮らしの男のある日の献立だけど、玄米ご飯20円、鰹節でだしをとった味噌汁(ネギと豆腐とワカメ)60円、ロシア産天然紅ジャケ160円、目玉焼きニコ40円。昼飯はコンビニ弁当600円。夜は玄米ご飯20円、季節の素材たっぷりオレ特製自家製豚汁180円、ガリガリ君3本300円って感じで一日1200円超えちゃうわけでしょう。それを850円でやるってゆーのだから。
かと思いきや、献立は豊富だ。ラーメン、うどん、カレー南蛮、ちゃんぽんなど麺類のほか、毎月一回ステーキが配食される駐屯地もあれば、カレーとナンなど本格的なインド料理も出る。平均的な一般家庭の食事と同等か、それ以上ではないだろうか。
全国でも政令指定都市に所在する駐屯地などは隊員数も桁外れ。東京都練馬区、埼玉県朝霞市、和光市、新座市にまたがって所在する陸上自衛隊朝霞駐屯地は陸上総隊司令部が置かれるほか、3年に一度、中央観閲式が実施されるコア駐屯地だ。女性自衛官教育隊や、体育学校も併設されている。
通常は1,500名、演習時は最大6,000名規模にもなる朝霞駐屯地では、食欲旺盛な男女隊員らの胃袋にコミットするため、超デカイ隊員食堂が備わっている。
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自衛隊では基地や駐屯地、陸海空ごとにメニューは豊富
たかが自衛隊メシ、されど自衛隊メシ。自衛隊の食事と一言で言っても陸海空、それに各駐屯地や基地によって千差万別だ。そう、”名物料理”がそれぞれにあるのだ。海上自衛隊の艦艇ごとでさえも名物料理がある。
各駐屯地、基地には名物料理がたくさん
航空自衛隊芦屋基地にはご飯の上にヤリイカや明太子などが乗った名物料理・芦屋丼がある。海栗島分屯基地ではブリ料理。築城基地では陸の孤島ってわけでもないが、海上自衛隊と同じく毎週金曜日の昼食はカレーである。
一方、北海道の函館近郊にあり、空自で唯一滑走路を持つ分屯基地こと、八雲分屯基地では帯広名物の豚丼が出る、豪快な肉の焼き方はトップ画像のとおりだ。一方、陸自・別海駐屯地では北海道道東の名物であるブタカツをバターライスに載せた「エスカロップ」が供されるほか、とれたての道産ホタテを使用したホタテ塩ラーメンが絶品とのことだ。
高知県の陸自・高知駐屯地ではカツオたたきの土佐丼が名物。陸自幹部候補生学校には名物「剛健ちゃんぽん」。伝統かつ美味いと大人気。なお幹部候補生学校の朝食では平日は和食、休みにはパン食が供される。ごはんのお代わりは自由とのことなので、糖尿病になるまでモリモリ食べるのも一考だ。
このように地域の名物料理や特産品が出る。
とくに自衛隊の中でも任務が過酷であればあるほど、配給される食事は美味い傾向にある。いや、それは語弊があるかもしれないが、例えば、航空自衛隊のレーダー・サイト。離島や山頂等の僻地、さらに雪害などの過酷な環境に臨む彼らの食事は美味い事で有名だ。海自の潜水艦も同じだ。
また陸海空ごとに食事に対する考え方も違っている。海自と空自では専門職の給養員を配置し、材料の注文・献立作り・調理まで全てを自前で完結させる。
一方、陸自は違う。陸自では駐屯地業務隊(駐屯地の警備、医務、給食などの駐屯地内業務を行う部門)の糧食班が、技官である栄養士の指示のもとで炊事を行う。
この「糧食班勤務」は駐屯地の各部隊から差し出された隊員による臨時勤務で、詮ずるところ、海自や空自のように専門職の隊員ではない。陸自に付加特技「給養」はあるが、海自や空自のような本格的な”調理学校”はない。
しかし、なぜ陸自だけ3ヶ月の交代制で臨時勤務員に調理させるのか。実はそれには深くて立派なワケがある。自衛隊の公式回答によると「たとえ部隊が離散して隊員一人になってしまっても生きてゆけるように、生存自活訓練としての側面から隊員それぞれに調理を経験させているんです」とのことだ。
“生存自活訓練”、おそらく多くの方にとっては聞きなれない言葉だろう。すなわちサバイバル訓練である。簡単に言えば、野外で捕獲した野生動物、魚介類、山菜などをその場で調理して”食いつなぎ”、滋養を得るための訓練である。これについては詳しく以下のレンジャー教育訓練で食べる食事の項目で案内した。
ただし、この場で紹介することには些か抵抗がある。今は見ないほうがいいだろう。
いずれにせよ、”生存自活訓練”の側面という事実には驚くばかりだ。部隊が壊滅状態になれば、給養の保証もない。自分で食いつなぐほか無い。なるほど、陸自が専門の給養員という職種を配置しない理由はここなのか。陸自の親心と考えれば、筆者も目頭が熱くなりそうである。
だから、陸自の飯炊き「臨時勤務」という伝統は陸自がしっかりとした思想を持って行っていることであり、どうやらメシマズではな……なくもないみたいで、海・空に比べるとやっぱり調理技術は劣るかもしれません……との陸自の公式回答だ。
参考文献 陸上自衛隊公式サイト
http://www.mod.go.jp/gsdf/wae/omosiro/omosiro11.html
実は2011年度時点で全国138カ所もの陸自駐屯地の食堂で給食が民間に委託されている
ところが、時代が変われば陸自の伝統も変わる。自己完結型の組織である自衛隊にとって、給養は組織運営上の基本であるが、実は陸上自衛隊では今や各駐屯地で給食業務の民間委託が増加傾向にある。
例えば、北海道の北千歳駐屯地ではそれまで隊員が交代で調理業務を行っていたが、2010年4月から民間業者に委託。2011年度時点で全国138カ所もの陸自駐屯地で民間委託されている事実がある。
一方、航空自衛隊の場合、すべての基地で調理・配食を行っているのは航空自衛隊給養員だ。ただし皿洗いは民間業者が受託する。
航空自衛隊でも将来的に民間業者を導入するかもしれないが、山や離島の空自のレーダー基地など、民間人が入り込めない職種ではこれからも自衛隊本来の味が失われることはないだろう。
増加食と加給食とは
自衛官が必要な一日のカロリー
一般的な20代成人男性が一日に摂取するべきカロリーの目安は2,500キロカロリーとされている。しかし、厳しい体力練成や訓練で体を酷使する自衛官は1日約3,000キロカロリーが基本だ。
さらにパイロットや航空機搭乗員、救難員、戦車乗員はこれより余分に300キロカロリー必要と決められている。この300キロカロリー分を補うのが「増加食」と呼ばれる、通常の食事に付加される食品だ。
特典のようにも思えるが、増加食はそれほど豪華な品目ではない。一食毎にバナナ一本、缶コーヒー一本、チョコ菓子一個、プリン一個、梨一個などが付くだけだ。糖尿病や水虫なら遠慮したい甘いものばかり。なお、この加給食も、ジェット機のパイロットとプロペラ機のパイロットの両者では数十円程度の差がある。
ただ、それら以外の隊員にも3食とは別に「加給食」と呼ばれるものが配給される場合もある。たとえば当直や演習時でのカップラーメンや菓子パンだ。
幹部自衛官は食事メニューが豪華なのか?
前述したとおり、肉体を酷使する「職種」によっては通常の食事に一品程度プラスされるが、階級の差や勤務成績で食事に差がつくことはない。
ただし、幹部と曹士隊員ではひとつ異なる点がある。それは食堂だ。幹部用食堂が一般隊員食堂とは別に用意されている。これは旧軍から続く伝統だ。
また、幹部隊員が基地内の食堂で食事を取る場合は有料になる。幹部は営外に住むのが基本であり、その分の食費などが俸給に含まれているためだ。
ただ、やはり幹部ともなれば外部の民間団体や米軍や各国軍将校との会食も多くなるため、必然的に駐屯地の食堂以外で豪華な食事を口にする機会も多くなるだろう。
お誕生日に配給される特別献立
自衛隊では組織内での人権意識が非常に高く、個人のお誕生日も最大限に尊重されている。自衛官がお誕生日月の給料日に特別配給されるのが「誕生日者特別献立」。
陸海空自衛隊それぞれにあるメシを作る腕を競う競技会
自衛隊では「競技会」で全国の部隊が各種の技術を競い合う。もちろん陸海空それぞれに給養担任者の技量を競い合う調理コンテストがある。陸自では「炊事競技会」、海自では「食育献立コンテスト」、空自では「調理競技会」とそれぞれ呼称は別だが、料理の題目提示、なおかつ「カロリーは○○○まで」など、いずれも厳しい審査で味はもちろん、独創性、盛り付けまでが採点の対象だ。
自衛隊のメシ炊きはやりがいのある仕事?
各基地の給養員のインタビューを見ていると「やりがいがある仕事」と感じられる。自分が真心こめて作った食事を幕僚や可愛らしい女性自衛官がお腹一杯食べてくださるのだから、当然かもしれない。
しかひ、心をこめて作った料理が時には理解されないこともあるようだ。「ばっかもーん!航空自衛隊の司令官の会食に羊の肉など使うでないないない!(残響音)」というような叱責を受けることもある。
Nice Guys シリーズ航空自衛隊は技術者集団 石川曹長は給養員(調理師)一筋「食べる側の気持ちになって」府中基地に勤務している頃、総隊司令部からの会食依頼がありました。メインを「子羊の香草焼き」としたところ、今でこそこのメニューは認識されていますが、当時の総務部長には「司令官の会食に羊の肉を使うとは何事か!」と叱られたことがありました。私なりに自信を持って作った料理だったのですが…。
引用元 防衛ホーム http://www.boueinews.com/news/2003/20031001_8.html
異色作!?自衛隊めし×女性自衛官を描いた電子コミック
昨今の国内ミリオタ業界ではもはや鉄板とも言える自衛隊の食事、それに各国軍のレーションといったいわゆるミリメシ。さらに女性自衛官という、これまたその手の人たちに不動の人気を誇る二つの素材。
過去になぜかありそうでなかった、この二つをコラボしたフルカラーコミックス、その名も『女性自衛官さくらのミリメシ日記』が2017年4月4日に発売された。
廣川ヒロト氏は福岡市出身の元自衛官で、電子作家の著作としては爆速で異例の売り上げを記録した『自衛隊のごはん』シリーズの作者。
本作は陸上自衛隊へ自衛官候補生として入隊した女性自衛官候補生・さくらとその同期の候補生たちが、何か怖そうだけど姉御肌の営内班長・水嶋3曹の指導を受けながら、将来の女性陸上自衛官(WAC)として成長してゆくというストーリーだ。とくに自衛隊食堂での食事風景を多めに描いた異色作となっている。うおォン。こういうのでいいんだよ。
巻末にはプロトタイプとも言えるキャラクターの原画も掲載されているが、なぜかこちらは『らきすた』風四コマでガラっと違うイメージが興味深い。
ともかく、入隊したての女性陸上自衛官候補生たちと班長との比較的おだやかな日常に癒されるも良し、爆食陸自娘さくら候補生の食いっぷりに腹を鳴らすも良し、全国への自衛隊取材からマンガまで描く廣川ヒロト氏の多彩な才能を堪能すべし。