航空自衛隊の戦闘機パイロットが使うTACネームとコールサインの違い

各国の軍隊がそうであるように、わが国の自衛隊機も機体ごとに割り当てられた固有の呼出符号、いわゆる『コールサイン』を使っています。

多くの国の軍用機は飛行隊ごとに異なる呼出符号を使用する。航空自衛隊第4航空団飛行群第11飛行隊は部隊愛称である『Blue Impulse(ブルーインパルス)』がそのまま使用されるほか、海上自衛隊において初等操縦訓練を行う第201教育航空隊は『rookie flight(ルーキーフライト)』を使用。

陸上自衛隊は基本的に飛行隊を問わず、機種が同じならコールサインも全国共通。

陸上自衛隊のUH-60Jヘリコプター

ただし、オペレーションによっては医療緊急搬送を示すサインを付加したり、編隊飛行では部隊のニックネームや地名由来のコールサインを使う場合もあります。

陸上自衛隊が使うエアーバンドのコールサイン

航空自衛隊および海上自衛隊は所属航空団または飛行隊ごとのコールサインに機体番号をつけたコールサインを使います。下記に典拠を示した図表は海上自衛隊第22航空隊の公式サイトから引用させていただいた資料ですが、同隊ではSH/UH60系のヘリは『ワイバーン』および『スカイラーク』の使用を公表しています。

自衛隊機コールサインの例(海上自衛隊公式サイトより引用)

コールサインについては海上自衛隊公式サイトにて公表されているものを引用した。出典 https://www.mod.go.jp/msdf/22aw/introduction/22fs/02_gaiyou.html

市販の広帯域受信機で航空無線を傍受すると、その運用がわかりやすく学習できます。

一方、それぞれの機体(飛行隊)が持つ「コールサイン」と異なるのが「TACネーム(Tactical Name)」です。TACネームは戦闘機パイロット自身が持つ個性的な”ニックネーム”と考えるのが適切です。TACネームの運用は米軍をはじめ、各国の空軍でもポピュラーですが、自衛隊では不思議なことに陸自と海自には存在せず、航空自衛隊でもTACネームがあるのはファイター(戦闘機)パイロットのみで、輸送機やヘリのパイロットは持っていません。

航空自衛隊の公式サイトでのパイロット紹介や、航空雑誌を読むとわかりますが、通常は戦闘機の機体の横やパイロットのヘルメットにTACネームが記載されています。曲技操縦士であった故・ロック岩崎氏の「ロック」も空自時代のTACネームに由来しています。

航空自衛隊のF-2支援戦闘機に搭乗するパイロット

なぜ戦闘機のパイロットのみがTACネームを名乗るのだろうか?

確定的な理由は不明ですが、戦闘機の場合は一人乗りが大半で、また機体同士で連携というより、やはりパイロット同士が連携して作戦を行う上で関係を密にするため、このようなTACネームが必要とるからではと推測できます。

飛行教導群が担う『アグレッサー』任務とは?

また、同姓の隊員だった場合、姓で呼ぶと混乱するなど不都合が生じたり、冒頭で言及したとおり、航空自衛隊の無線と言えど、航空無線は誰でも傍受できるので、姓を公にしてしまうのも問題がありそうです。

そのような理由から、戦闘機が飛行中、地上の管制塔と無線交信する際はそれぞれの部隊や機種別のコールサイン(呼出符号)を使用しますが、戦闘訓練中の際はパイロット固有のTACネーム(tactical name)を使うというわけです。

TACネームは着任した部隊で先輩パイロットや教官から命名されるのが慣例

さて、このユニークなTACネーム。航空自衛隊では慣例的に名付けてくれるのは先輩や教官とのこと。その事実は愛知地方協力本部で以下のように言及されています。

航空自衛隊の戦闘機パイロットがもつ個人の愛称、ニックネームのことです。訓練や任務で戦闘機パイロット同士が講話する場合などは、このタックネームで呼び合います。着任した部隊で先輩パイロットから命名されるのが慣例のようです。

典拠元 https://www.mod.go.jp/pco/aichi/j_recruit_oshiete_pilot.html

なお、あまりにも奇を衒ったTACネームだと、基地司令など偉い人からダメ出しを受けることもあるといいます。

ちなみに航空自衛隊千歳基地の第二航空団を舞台にF-15イーグルのパイロットたちを描いた映画「BEST GUY」でも、TACネームには興味深い演出があります。

織田祐二が演じる同作の主人公・梶谷二尉にはTACネーム「GOKU(ゴクウ)」が与えられていますが、命名の由来は「第5航空団から(2空へ)来たのでゴクウ」というもの。故・古尾谷雅人演じる教官の吉永三佐(TACネーム/ゾンビ&デモン)が付与したものです。梶谷にTACネームが与えられた瞬間、それまで彼をよそ者かつ半端者扱いしていたクセの強い2空のメンバーらが、新たな仲間として笑顔で受け入れる演出に思わずニヤリとしてしまいます。