夢のウイングマーク(航空機搭乗員き章。パイロットの証)を取得する方法とは
航空自衛隊および海上自衛隊のパイロット任用への道はいくつかあるが、もっともストレートな方法は航空学生採用試験に合格することだ。
航空学生とは高校卒業または中等教育学校卒業者(見込みを含む)、高専3年修了者(見込みを含む)および、高校卒業と同等以上の学力があると認められる男女を対象とした海上自衛隊・航空自衛隊のパイロット候補生を採用する受験区分だ。
航空学生では戦闘機のみならず、輸送機などのパイロットへの道も開けている。
また、固定翼哨戒機(P-3C、P-1)に搭乗して戦術情報の指揮を下す海上自衛隊の職種のである戦術航空士(TACCO tactical coordinator)になることも可能だ。
ただし、航空学生の教育は苛烈を極め、先輩学生には絶対服従、教官は神、警備犬ですら上官であり、敬礼しなければならないという厳しい世界。採用されても成績不良、訓練中にケガをして飛行に支障をきたすほどの後遺症を負った場合などは問答無用でエリミネートになる茨の道だ。近道はないが、航空学生の採用試験合格が最も手堅い道と言えるだろう。
しかし、パイロットになれなくても自衛官の身分を失うことはなく、別の職種に配属になるなど、例のドラマでおなじみの夢破れた者への救済措置も設けられている。
なお、航空学生以外にも戦闘機パイロットになる方法や採用区分はあり、防衛大学校に合格して航空要員になるか、あるいは一般大学を卒業して一般幹部候補生の航空要員になれば、戦闘機パイロットへの道が開ける。ただし、いずれも難関だ。
なお、陸上自衛隊には航空学生のようにはじめからパイロット候補生を外部募集する制度は無く、陸曹になって陸曹航空操縦課程に合格するか、幹部で入隊し、幹部操縦課程に合格するか、防大から陸自の航空要員を目指す道などがある。
そんな超エリート選抜の航空学生採用試験で空自の航空学生として採用された人の中には著名人もちらほら。八雲出身の漫画家のたなかてつおさん、それに傭兵として戦場を渡り歩いた高部正樹さんなどがおり、以下の記事にて紹介している。
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近視矯正手術(レーシック)について
防衛省では平成20年9月1日(月)に航空身体検査の合格基準を改正(緩和)したが、航空学生採用試験においては、今なおレーシックなどの近視矯正施術(オルソケラトロジーを含む)を受けていないことが条件となっている。
すなわち、現状ではレーシック手術を受けてしまうと、航空学生への任用が不可能となる。
航空学生、つまりパイロットを目指す受験生にとって視力は大きな問題だ。現在は視力回復の手段としてレーザー等を用い、角膜の表面を薄くすることによって曲率を下げて視力を矯正するというレーシック手術が一般的だが、防衛省による公式な「航空学生」の受験概要案内を見ると、「近視矯正手術(オルソケラトロジーを含む。)を受けていないこと」と明記されているので以下に典拠を示す。
片眼の遠距離裸眼視力又は矯正視力が0.7以上かつ両眼の裸眼視力又は矯正視力が1.0以上
中距離裸眼視力又は矯正視力が0.2以上
近距離裸眼視力又は矯正視力が0.5以上
近視矯正手術(オルソケラトロジーを含む。)を受けていないこと。
なお、矯正視力は眼鏡を使用する。(コンタクトレンズは不可)
防衛省公式サイトより引用。引用元の明示
http://www.mod.go.jp/pco/sapporo/recruit/faq_examination.html
上記が防衛省が公式に発表している航空要員の視力の基準だ。なお、オルソケラトロジーとは就寝時に特殊なコンタクトレンズを装用し、視力を回復させるという手法。
また、自衛隊が公式協力した宮嶋茂樹氏の女性自衛官パイロット写真集「自衛隊 レディース 空飛ぶ大和撫子」によると、下記の一文が記載されており興味深い。
ちなみに角膜手術しても無駄である。入隊後、眼圧検査で一発でバレるらしい。その瞬間、パイロット資格は無条件で剥奪されるという。
出典 宮嶋茂樹 著『自衛隊レディース 空飛ぶ大和撫子』
飛行要員を目指すのであれば、手術(オルソケラトロジー含む)以外の方法で視力回復に努めたほうが良い。自衛隊でも、この「視力」については気を使っており、実際に給食ではパイロットへの加給食として「目に良いとされるブルーベリーのジュース等」を配給しているのだ。
防衛省公式サイトより引用。引用元の明示
http://www.mod.go.jp/gsdf/wae/omosiro/omosiro11.html
航空自衛隊の戦闘機パイロットによる視力を良くするための空自公式コメント
以下に引用したものは航空自衛隊の戦闘機パイロットによる視力に関する公式コメントだ。
天気の良い日には遠くを眺める等、視力を維持向上してください。
引用元 空自公式サイト
http://www.mod.go.jp/asdf/wadf/respon/
航空学生の試験と身体検査など
航空学生の試験には筆記、身体検査がある。受験者は日本各地の有名進学高校の生徒であり、幼少から英才教育を受け、基礎学力を完璧に備え、さらに数学と英語が普通にできて当たり前でなければ話にならないレベルと言われている。
航空自衛隊の航空学生3次試験で行われる衝撃的なこと
ところが秀才だけでは合格に値しない。パイロットの適正が求められるからだ。そのため、なんと実際の操縦試験がある。
警察や消防と違って、いわゆる腕立て伏せや腹筋などの体力試験はないが、航空自衛隊の航空学生3次試験は適性を検査される大掛かりな試験が待っている。しかし、この試験のプロセスでは素晴らしい体験ができることだろう。実際の練習機に乗り込み、空中で飛行実技試験を行うという、まだ車すら運転したことのない高校生には驚きの試験である。
もちろん離着陸は教官による操縦だが、受験生は上空で上昇、上昇旋回、水平旋回、急旋回などの簡易な操縦試験を行うのだ。この飛行実技試験はCP-1からCP-4と呼ばれる過程がある。
もちろん、事前に試験の簡単な概要説明がなされるが、試験官は「手順を暗記しても無駄だからね」と冷たくあしらう。「パイロットの適正試験てのは、あの~、限られた時間内で飛行手順をどれだけ覚えられるかって、つまりーそういうことだからさ~」とのことだ。
高校時代からグライダークラブで滑空機の免許や航空特殊無線技士の資格をとっておけば、航空機に対する知識と技量を持っていると判断されて有利かもしれないが、何の資格を持っていなくても受かる者は受かる。適性を持っているという結果だ。
しかし、操縦試験中は受験生の緊張をほぐすためか「あれ、富士山だよ。綺麗だね」とか「三保の松原だよ」などと教官は意外とフレンドリーでもある。
採用後の教育
採用後は正式な自衛官かつ「航空学生」として、全員が航空/海上自衛隊基地で集団生活を送りながら基礎教育を2年間受けたのち、飛行訓練を中心としたそれぞれの段階の操縦課程に進むことが許される。
また、自衛隊に限らずパイロットにとって英語は必修科目のため、徹底した英語教育が行われる。航空管制は英語が基本であり、また米軍との共同訓練でも英語。航空自衛隊のパイロットは奈良県の空自幹部候補生学校で3ヶ月から半年の英語教育をみっちり受けるのだ。
教育中に根性や学ぶ意欲が足らなかったならEチェック判定だ!
Eチェック判定とは航空学生の訓練にて連続で不合格の評価をされ「おまえ、何考えてんの。4.5億円の税金使って飛行訓練している自覚ないべ?なら、パイロット以外の職種行くか辞めるか決めろや」と言い渡される寸前の最終ぎりぎりラインである。
ただし、Eチェック判定から怒涛の猛勉強と努力ではい上がり、めでたくウイングマークを取得したパイロットは何人もおり、それらの根性話は防衛省が広報で好んで紹介する話だ。
だが、Eチェック判定から回復できない場合やケガをして訓練自体が行えない場合に待ち受けるのが、航空学生の教育課程の途中でコースアウトとなる「エリミネート」だ。パイロットが対空ミサイルよりも恐ろしいと呼ぶこのエリミネートの烙印を押されると、パイロット資格、ウイングマーク自体を取得できなくなってしまう。
一方、戦闘機パイロットから救難機や輸送機などのパイロットに機種変更することをF転と呼ぶ。
参考文献 パイロット育成レポート ウイングマークを目指せ!JASDF HEADLINE
http://www.mod.go.jp/asdf/special/webmagazine/vol2/wing/p04.html
航空自衛隊における航空学生の教育
空自で飛行教育を担うのは瀬戸内海を望む山口県防府市にある第12飛行教育団。防府では航空学生に対して「航空学生課程(約2年)」と「地上準備課程(0.5~6ヶ月)」、および「初級操縦課程」の教育訓練を行っている。
なお「初級操縦課程」は第11飛行教育団でも行われており、そちらに進む場合もある。
約2年間、座学を中心とした基礎教育を受けて修了後、飛行幹部候補生として約2年間の飛行訓練を中心とした操縦教育を経て、パイロットの資格を取得します。その証として「ウイングマーク」を授与されます。さらにその後約4ヶ月から1年で、戦闘機、輸送機、救難機に分かれて教育訓練を受けて、各部隊に配属されます。「初級操縦課程」を修了した後、芦屋基地の第13飛行教育団での「基本操縦前期課程」、または美保基地の第3輸送航空隊での輸送機等の操縦士育成の「基本操縦課程」に進みます。
このようにして、複数のメソッドを用いた教育カリキュラムが行われている。
海上自衛隊における航空学生の教育
山口県下関市の東端に位置する海上自衛隊小月教育航空隊では海上自衛隊航空部隊の基幹となるパイロットおよび、戦術航空士の基礎教育を行っている。
防衛大および、一般大学の卒業者などからなる幹部候補生学校・一般幹部候補生課程修了者が入る「幹部航空基礎課程(12週)」と一般高等学校卒業者が入る「航空学生課程(2年)」の2種類の課程教育が実施されている。
海上自衛隊の初等練習機 T-5
基礎課程修了者は徳島航空基地の計器飛行課程へと進む。学生は将来の幹部自衛官としての素養教育からパイロットや戦術航空士となるために必要な専門知識の教育を受ける。
なお、海上自衛隊では海上保安庁の委託を受けて海保パイロットの育成も行われている。
射出座席での脱出を疑似体験!
戦闘機には緊急脱出用の射出座席が備わっており、非常の際は手で把握を引っ張るとキャノピーが吹き飛び、次いで座席下部のロケットモーターが作動してパイロットは座席ごと機外へ飛び出す。
その後、自動開傘するパラシュートにより安全に降下するが、座席の下には着水で自動膨張する救命いかだや、救助が来るまでに命をつなぐ各種デバイスや食料が入っている。
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アメリカ軍のU-2偵察機には自尽用の毒まで用意されていたが、自衛隊のものには入っていない。
この射出による脱出を地上で疑似的に体験する訓練がある。ロケットではなく圧縮空気による射出だが、6Gもの高いGがかかりヘブン寸前だ。また、陸上自衛隊第1空挺団で80メートルの降下塔からの落下傘降下訓練も行う。
航空自衛隊の戦闘機パイロットになるためのまとめ
余談だが、航空自衛隊には歩哨を担う警備犬がいる。彼らには空曹の階級が与えられており、空士たる航空学生より上官となる。「かわい~」などと言おうものなら、先輩から叱責されることもあるという。
- 航空学生の採用試験に合格することが空自、海自パイロットへの堅実な手段
- レーシック手術をした時点で合格条件は一発はく奪!眼圧検査でばれる
- 英語だけは早いうちから身につけていても損はない
- たとえ犬でも、その犬が上官なら敬礼だ!
- 陸自に航空学生制度はなく、内部選抜の陸曹航空操縦学生、防衛大から航空要員を目指す道などがある
このように航空自衛隊と海上自衛隊のパイロットの採用試験である航空学生採用試験は自衛官の採用試験の中でも、ひときわ厳しい選考基準と選抜試験が行われているのだ。もちろん女性にも公平に門戸は開かれており、3自衛隊ではすでに多数の女性パイロットが活躍中だ。
なお、自衛隊愛知地方協力本部さんによると自衛隊パイロットの職業病は「基本的に座り仕事であることから腰痛や痔」だそうだ。