自衛隊のレンジャー訓練で行う『生存自活訓練』では山野で手に入る『新鮮な食材』が有効活用されている

陸自におけるレンジャー教育訓練は苛烈を極めていることはすでにお伝えしているとおり。

陸上自衛隊のレンジャー課程教育とは？

今回は自衛隊のレンジャー教育で学生が食べる”食事”についてご紹介。彼らは訓練中、並みの陸自隊員ならば躊躇するような通常の隊員食堂の食事や、野外炊具によって調理された温食とは全く異なる食事をしています。

レトルトタイプの戦闘糧食2型

レンジャー学生らは訓練の間、あらかじめ配給された少量の戦闘糧食を携行しており、レトルトや缶詰になった白米やおかずなどを頬張るのですが、戦闘糧食とて通常は湯煎して食べるもの。ただ、状況ひっ迫時には温めている暇はなく、固形状態のまま、口にすることも想定の範囲内。

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数十キロの爆薬を背負い、夜通し駆けて木の根を枕に束の間の休息を取る潜入訓練中、頭にテリヤキバーガーを思い浮かべながら、冷たい戦闘糧食を食う自由はあっても、糧食は極端に少なく、時にはカンパン一枚をバディ（相棒）と分け合うことも。レンジャー訓練とは精神力をも養う訓練だからです。

Contents

1 レンジャー教育における生存自活訓練
2 レンジャーご飯のまとめ

レンジャー教育における生存自活訓練

携行食糧をあえて少なくしている理由は「食糧を現地調達し、潜伏しながら生存する」という生存自活の技術習得も兼ねているからです。

生存自活とは？

『生存自活』とは過酷な環境下に潜伏しながら自らの生命を維持し、生存する能力を養う陸上自衛隊の訓練です。フィールドにおける野生生物の狩り方、食用可能な植物の見分け方と採取など、山野での食料調達までの実践技術を任務完遂のための不屈の精神力を養いながら習得します。主にレンジャー訓練において行われます。

つまりはサバイバル技術の訓練です。ザ・ファブルでやってるやつな。あーあれかー。

なお、余談ですが駐屯地の隊員食堂事情でご紹介の通り、陸上自衛隊には「糧食班勤務｣という、隊員全てが駐屯地で数カ月ごとに交代制で食事を作る経験を積む伝統芸があります。メシを作っている主体は業務隊糧食班の常勤隊員とパートのおばさんですが、その中には臨時派遣を命ぜられた隊員も。つまり、調理要員だけでなく、調理に関して専門職ではない隊員が食事を作るというのが、この陸上自衛隊の『糧食班』制度です。海自と空自では専門職たる給養隊員のみで調理しており、陸自のような「数か月間限定の臨時の糧食勤務制度」はありません。なぜ、陸自だけ専門職でない一般隊員が交代制でメシを作るのか。

実はね、それも広義では立派な生存自活訓練の一環なのよ。

有事の際、隊員一人ひとりの食糧面での生存自活力をあげたいという思惑が陸自にあるのでしょう。

陸自のレンジャー教育における『生存自活訓練』では山中で手に入る野草、山菜など、口にできて栄養のある植物は全て教官から詳しく教示され、その知識は生き残るために有効利用されます。松葉茶にタラノメなんて最高のご馳走です。

水の確保

清潔な水を見つける方法や浄水の方法を知ることが生存自活には不可欠です。山林奥深くで行われるレンジャー訓練では水の確保も容易ではありません。雨水の採取などの方法があります。

自衛隊レンジャー、野草や山菜などを採取して食う

軍事におけるサバイバル訓練では栄養のある戦闘糧食が配給され、自衛隊や米軍など先進国の軍隊ではレトルトパックの形態のものが一般的です。

軍隊のサバイバル訓練において推奨される野戦携行食糧

一般的に軍隊におけるサバイバル訓練で推奨される食事は高エネルギーの食事で、基本的にはこんな食事が配給されています。

高エネルギー食品: 野外での活動ではエネルギーの消費が大なり。よって高カロリーの食品が必要。ナッツ、乾燥果物、エネルギーバー、缶詰の肉や魚等を推奨。
たんぱく質源: 筋肉が必要とする栄養素はたんぱく質。よってレトルトパックの肉や魚、乾燥豆類、ナッツ、乾燥ミルクなどを推奨。
ビタミンとミネラル: 野菜や果物はビタミンやミネラルの重要な源ですが、野外訓練状況では新鮮なものは不可。よってビタミンCを含むドライフルーツ、カロテンを多く含む乾燥野菜を推奨。
水分: 生存でもっとも重要なものは実は水。飲料水が手に入らない場合、携帯浄水器や滅菌錠剤を使用し適切に水を処理したうえで補給する。
持ち運びやすさ: サバイバル用携行食（野戦糧食）は、携行容易かつ長期保存できるものが基本。レトルト、乾燥食品、エネルギーバーなどを推奨。

以上のように、高エネルギーで栄養価の高い食品を重視し、長期保存が可能な要素を考慮したサバイバル用の野戦糧食（レーション）として、米軍兵士に現在配給されているのが『MRE』です。

MRE 米軍戦闘糧食

上記の条件に6番目を付け加えるなら『風味の良さ』すなわち、味が良いことも入れたいところですが、これは実は厄介な条件です。上述の米軍が兵士に支給しているMREという戦闘糧食、実は意図的に風味悪く作られています。その理由は美味しくしてしまうと普段から兵士がおやつ代わりに食べてしまうから。『米軍のレーションはわざとマズい』。これは残念ながら事実です。

山野で手に入る食材は何でも使え！その1、滋養強壮効果のある野草の例『松葉茶』

サバイバルにおける極限状態で野草による有効な滋養強壮効果を得られるものに「松葉茶」があり、各国軍のサバイバルマニュアルでも記載されています。針葉樹の松の木にはリラックス効果があることも知られていますが、その葉を擦りつぶし、煎じて飲むとビタミンや必須アミノ酸などが豊富な滋養強壮効果があるお茶になります。

松は冬季でも葉を青々とさせた常緑針葉樹。まさに極限状態でも手に入る食材です。

山野で手に入る食材は何でも使え！その2、動物性タンパク質

とくにレンジャー訓練では筋肉を作るためのたんぱく質の確保は重要。本来であれば、肉、魚、卵、豆類などのタンパク質源がバランスよく食事に含まれますが、それはあくまで隊員食堂や家庭での話。ここはカマドのない山の中。ではどうするのか。調理前に現地調達するわけです。

サバイバルキットの中身に釣具が含まれていることはよく知られていますが、魚釣りもまた有効な食糧確保手段です。こちらは自衛隊における『生存自活セット』の開封動画です。

そして、レンジャー訓練における生存自活でのタンパク質補給は持続可能なカエルやヘビなどの動物性タンパク質がメインになります。

画像は陸上自衛隊公式Xより引用。

なお、アメリカ海兵隊でも合同軍事演習コブラゴールドにおいて、サソリを食べてコブラの血を飲み、その肉を口にするという生存自活訓練を行なっています。動物の血には糖・脂質・アミノ酸・タンパク質などが含まれており、極限状態では貴重な栄養源となるのです。

ただし、ヘビやカエルは『マンソン裂頭条虫』に寄生されており、これらの生物を食べる場合は生食は厳禁。火を通すなど加熱処理が絶対です。

本来であれば、ヘビもその場で野生のものを捕まえるのがサバイバル技術の習得訓練ですが、そうそう都合よく野生の蛇が目の前に現れてくれるはずもなく、レンジャー学生たちが自分たちで飼育しているヘビを食料として使用しており、教官が事前に購入した蛇を訓練開始前に山に放ったりしています。

ヘビは帽子のツバにヘビのキバを噛ませ、引っ張り折ってから一気に皮をはいで内臓を捨て、長い木の枝に巻きつけて焚き火で焼いてから身を食べるのですが、誤ってヘビの血管を破ると血だらけになって非常に生臭いものの、身は淡白で美味しいとされます。

ただ、レンジャー訓練とはいえ、なにも毎日蛇を食うわけではなく、陸自の野外演習時において一般的な温食も食べています。とはいえ、食事中も常に戦闘態勢。気は抜けません。食べてる最中に敵の襲撃があれば、食事は中止。いつまでも食っていると教官からオラオラ連呼で食ってるものは即座に地面に叩き落とされてしまいます。