自衛官とともに任務を遂行する頼もしい『相棒』たちとは
自衛隊の中に動物がいるって本当?実は本当。自衛隊体育学校では馬術競技の選手を育成するために馬を飼育しているほか、さらに自衛隊では空自と海自のみ、任務に必要であることから、歩哨犬および警備犬が配備されており、ハンドラーの隊員とともに日々訓練に励んでいるのだ。
「よく、このバカ犬、って言う飼い主がいますよね。それは、犬ではなく飼い主がだめだということなんです」
航空自衛隊入間基地公式サイト 歩哨犬紹介ページより http://www.mod.go.jp/asdf/iruma/special/021/p2.html
警備犬は噛み付く訓練も受けており、警察犬のような役割を担うほか、災害時には救助犬として人命救助の任務を担うこともある。名目上は「備品」だが、自衛官の任務に必要で大切なパートナーなのだ。
なお、警備を目的とする犬が配備されているのは現在、海自と空自のみだが、昭和30年代には陸自でもシェパードを配備して同様の任務に就かせていた史実がある。
諸外国の軍用犬
軍隊と兵士が、犬を相棒としてきた歴史はそう新しいものではない。日本では戦国時代から伝令や偵察に犬を使役しており、旧軍でも警備や歩哨に犬が使われていた。旧ソ連軍では犬に爆弾を巻き付けて、敵国であったドイツ軍戦車の下に潜り込ませて自爆させる『対戦車犬』というあまりにも悲しい運用がされていた史実もある。
現在、アメリカ軍では爆発物を探知する軍用犬が運用されている。在沖縄米国海兵隊ではハンドラーと犬との関係は職場だけでなく、プライベートにもおよび、お互いの信頼関係を深めている。
『どのように人の親友が最も近い味方になるか』爆発物探索犬とハンドラーの海兵隊員
典拠元 米国海兵隊公式サイト(Official U.S. Marine Corps Website) How man’s best friend becomes closest ally By Cpl. Jessica Etheridge | III Marine Expeditionary Force | February 3, 2017
http://www.iiimef.marines.mil/News/News-Article-Display/Article/1069844/how-mans-best-friend-becomes-closest-ally/
航空自衛隊の警備犬
現在、航空自衛隊では警備犬(旧称・歩哨犬)として民間の施設で基礎的な訓練を終えた1才のドイツ原産のドイツ・シェパードを購入し、訓練している。素直で警戒心が強く、情緒も安定していることから世界的に警察用犬種としても定評のあるドイツ・シェパードはまさに警備を担う警備犬として最適だ。ただし、ラブラドール・レトリバーも一頭のみ配備されている。
奈良県警では最近「チワワのモモちゃん」を鼻の優れた犬と認め、嘱託警察犬として任用したことが話題となたが、自衛隊では今のところ、チワワは任用されていない様子だ。
自衛隊の警備犬として必要な資質を身につける訓練は実に3年にも及ぶ厳しいものだ。
警備犬の訓練を担任しているのは航空自衛隊基地や施設の警備を担う基地業務群管理隊のなかに編成されている警備犬管理班。ペットではない彼らの厳しい訓練は警察犬同様であり、隊員もまたプライドと強い意志を持った一流のトレーナーだ。
航空自衛隊警備犬の主な訓練メニュー
警備の基本は不測の事態に備え、注意して守ることとしている航空自衛隊。実際の現場で役立つようにさまざまなな訓練を警備犬に行っている。
命令されるまでじっと立ち止まる「立止(りっし)」
命令されて伏せてじっと待つ「伏臥(ふくが)」
取扱者と並んで歩く「脚側行進(きゃくそくこうしん)」
目標物を取って来る「待来(じらい)」
障害物を飛び越える「障害物飛越(しょうがいぶつひえつ)」
不審者を見つけて威嚇する「禁足咆哮(きんそくほうこう)」
命令によって不審者襲撃を行う「襲撃」
『爆発物検索』
火薬の臭いをしみこませたダミーの爆弾を探索する
『不審者追求』
不審者の臭いをたどって追及する
『捜索』
災害救助犬のように災害時の被災者捜索を行う
警備犬は以上のような訓練を行っているが、訓練では命令を聞いて与えられた行動に成功したとしても、ハンドラーは食べ物を与えて誉めはしない。
「犬はボール遊びが大好きなので、ボールを与えることが褒めることなんです。食べ物は与えません。褒めるたびに食べ物がもらえるというような訓練では、食べ物がなければいうことをきかなくなりますし、健康管理ができません」
航空自衛隊入間基地公式サイト 歩哨犬紹介ページより http://www.mod.go.jp/asdf/iruma/special/021/p2.html
海上自衛隊の警備犬
一方、海自でも基地警備を任務とする警備犬を配備させている。
海上自衛隊呉地方隊の警備犬は東日本大震災において、不明者捜索のために陸海空自衛官および防衛事務官混成による 「警備犬部隊」として東北の被災地へ派遣され活躍した。派遣された犬は海上自衛隊警備犬の「金剛丸」と「妙見丸」の2頭。犬たちはガラスの破片で足を血だらけにしながらも、見事に取り残された住民らを見つけ出し、隊員が救助した。
残念ながら「金剛丸」は派遣後に肺炎に罹り、4年の生涯を閉じたが、呉地方隊では警備犬慰霊碑を建立し、その冥福を祈っている。
自衛隊の警備犬のまとめ
このように自衛隊では空自と海自のみが警備用に警備犬を配備している。なお、任務を解かれて引退した警備犬は民間への譲渡はせず、自衛隊で最後まで養育している。
追記 2024年現在は航空自衛隊では退役した警備犬の民間譲渡を行っている。
余談だが、元航空自衛隊航空学生の高部正樹さんが学生時代、歩哨犬(2等空曹である)が自分よりも上官であることを知らずに欠礼(上官への敬礼を怠ること)してしまい、先輩学生に厳しく叱責されたという逸話がある。
参考文献
・桜林美佐『日本に自衛隊がいてよかった 自衛隊の東日本大震災』
・扶桑社『MAMOR』
・航空自衛隊公式webサイト
・米国海兵隊公式webサイト