自衛官に与えられる認識番号と認識票の意味とは



諸外国軍では兵士それぞれに認識番号が与えられているが、我が国の自衛隊員も例外ではない。

陸海空の各隊員に与えられるこの認識番号は、一文字の間違いなく2枚組みの小さなステンレス製の認識票に刻み込まれ、各員は付属のボールチェーンを使い、ネックレスの要領で首から下げるのだ。

ドッグタグネックレス サイレンサー付き ネーム入れ(手彫り)も可能です 0424

米軍タイプの市販品

映画などで小さな2枚の金属プレートを首から下げている兵士を見たことがないだろうか。それがこの認識票である。米軍においては通常、首から下げるほか、爆風による飛散を防ぐため、コンバット・ブーツの編上げの内側に入れることもある。

英語圏では”ドッグタグ”とも呼ばれるが、そのスラングの由来は当然、犬の鑑札にちなんでいる。我が国でもシルバーアクセサリーとして見た場合はその名のほうが通るだろう。

認識票に記載される事項とは

軍隊における認識票には多くの事項が記載されるが、その各種事項とは何かを見ていこう。

まず、兵士の氏名、生年月日、それに血液型といった重要なパーソナルデータだ。それに加え、米軍の認識票には本人の宗派(キリスト教徒や仏教徒、パプテストなど)まで記載される。

さらに兵士としての認識番号(米軍は社会保障番号)、階級、所属も併記されるのが一般的だ。

米軍と自衛隊の認識票の材質や仕様の違いは?

自衛隊員が身に着けている認識票は厚さ0.5ミリ、長さ5センチ程度の大きさで、見た目の形状は米軍で配備される二枚組の「複式」タイプの認識票とほぼ同じだ。

しかし、材質は異なり米軍はアルミニウム、自衛隊はつや消しのステンレススチールであり、我が国の認識票は頑丈だが少々重いのだ。

なお、二枚の認識票が重なり合っても金属音を発しないよう、米軍の認識票は本体の外周にゴムをかけて消音させるが、陸上自衛隊の認識票は全体をビニールで覆う仕様だ。

また、認識票に記載された原稿の刻印は米軍方式は打刻のため深い。一方、我が国の自衛隊はレーザー方式による刻印のため、やや浅めとなっている。

世界ではスマートタグの研究が進んでいる

現在、アメリカ軍ではドッグタグの中に集積回路を埋め込む試験を行っている。いわば、”スマートタグ”とでも言うべきもので、負傷した兵士の情報を野戦病院との無線リンクで即時に伝え、後続の救命措置をスムースに行う狙いがある。

また、中国軍でもインテリジェント・チップ・テクノロジーを用いた同様の実験を行っており、軍の兵士全体に配給する計画である。

中国軍の認識票。二枚の複式。軍のサポートカード、e-casualtyカード、および軍人の識別の機能を統合したIDタグは平時と有事にも活用されている。出典 http://eng.chinamil.com.cn/view/2017-02/21/content_7496278.htm

メインタグと補助タグから構成される。QRコードがプリントされているが、これは我が国の発明では・・。出典 http://eng.chinamil.com.cn/view/2017-02/21/content_7496278.htm

自衛隊員は認識票を着用せよという定めがきちんとある

航空自衛隊の「認識票に関する達」の第5条において、認識票は次のいずれかに該当する場合に着用しなければならないと細かく定められている。

航空自衛隊の「認識票に関する達」の第5条

(1) 自衛隊法(昭和29年法律第165号)第6章の規定に基づき行動する場合

(2) 航空機に搭乗する場合

(3) 外国において行う国際貢献に関する業務に従事する場合

(4) 訓練または演習に参加する場合

(5) 部隊等の長が特に必要と認める場合

典拠元 http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/g_fd/1963/gy19630904_00048_000.pdf

実際には操縦士などは着用していても、航空機整備などに従事する航空自衛隊員は機体のエンジン整備などで認識票の紛失からの部品破損など、思わぬアクシデントを防ぐため、着用しない習慣になっている。

陸上自衛官の場合、頭にG(Ground Self-Defense Force)、海上自衛官の場合はM(Maritime Self-Defense Force)、航空自衛官の場合はA(Air Self-Defense Force)が付いた認識番号を割り振られる。

また、達によれば『認識票は自衛官に交付する』と定められており、自衛官以外の自衛隊員、すなわち事務官や技官、教官などへ交付を定めている文言はない。


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認識票には単式と複式がある

各国の認識票はほぼ1枚式の単式、または2枚式の複式のいずれかである。単式の場合でも認識票の中央に溝などを入れられ、下半分が切り取れる場合が多いため、事実上、1枚の単式でも”二枚で一組”となる。

では、”認識票が二枚で一組”であるのはなぜなのか。それには運用上のきちんとした理由がある。

万が一、兵士が戦死して戦地で埋葬される場合は一方の認識票を遺体の口内に入れて埋葬する。遺体を帰国させる場合も同様で、1枚は遺体の身につける。そして、残ったもう1枚は部隊に持ち帰って報告時に提出する。

このような理由で、認識票は複式または単式となっているのだ。

なお、敵国の兵士であっても認識票の扱いは基本的に友軍のそれと同じく重要で、人間としての尊厳を守る厳格なものであり、ジュネーヴ条約の第1条約第16条の4にて定められている。以下条文に明記されている『識別票』に関する条文が根拠だ。

「紛争当事国は、死亡証明書又は正当に認証された死者名簿を作成し、且つ、捕虜情報局を通じて相互にこれを送付しなければならない。紛争当事国は、同様に、死者について発見された複式の識別票の一片又は、単式の識別票の場合には、識別票、遺書その他近親者にとって重要な書類、金銭及び一般に内在的価値又は感情的価値のあるすべての物品を取り集め、且つ、捕虜情報局を通じて相互にこれらを送付しなければならない。」

出典 防衛省自衛隊公式サイト 『ジュネーヴ第1条約第16条の4』 https://www.mod.go.jp/j/presiding/treaty/geneva/geneva1.html

軍隊の認識票は国際法上でも、そして人道上でも、とても大切に扱われるべきものであることがお分かりだろうか。

認識票につけられた切り欠きの”神話”と”真実”

さて、前述した複式の認識票に関連して面白い話をしよう。かつての米軍のドッグタグには、縁(ふち)の一カ所に窪みがあった。これは俗に「切り欠き」と呼ばれていたが、それが設けられた理由として以下の役割が比較的広く信じられている。

『冷たく硬直した兵士の口を手で開けたうえで認識票を歯にしっかりと挟み込むため』

認識票をガッチリ上下の歯で固定したうえで、兵士の亡骸を土の中に埋葬し、ドッグタグは複式になっているのでもう一枚は部隊に持ち帰り「兵士が義務を果たした証拠」として部隊長の承認を受け、兵士の遺族のもとへ遺品として届けられる・・・という運用方法があったからとされているのだ。

ベトナム戦争における米国陸軍特殊部隊の前線偵察をドキュメンタリー風に描いた傑作B級映画「84★チャーリーモピック」の作中でも、それは一部描写されていた。

84☆チャーリー・モピック [VHS]

「84チャーリーモピック」

ただ、映画の中の描写は認識票を兵士の亡骸の歯で固定するというよりは、口内へ押し込んだ上でODのテープで口をふさぐというものであった。

しかしながら、アメリカ軍ではこの「切り欠き」、1968年ごろ以降にはすでに廃止され、現在支給される現行型ドッグタグにはない。

そして、在日アメリカ海兵隊のホームページで2006年2月10日金曜日に発表された五大湖軍事史博物館教育収集所長のインタビュー記事にて、亡骸の歯をこじ開けるための切り欠き説が明確に否定された。

記事によれば「ドックタグの切り欠きの理由は打刻機に固定させるための固定ガイドが”真実”であり、亡骸の歯をこじ開けるのは”神話”に過ぎない」とのことだ。

なお、所長はこの”神話”の調査のプロセスでドックタグのボールチェーンの玉の数は365個で一年を表しているという新たな”神話”の発見もした。

自衛隊の認識票に切り欠きはあるのか?衝撃的な事実が発覚

では、我が国の自衛隊の認識票を見てみよう。なんと、切り欠きがあるではないか。

しかも、前述した航空自衛隊が公表している「認識票に関する達」という公的文書には、しっかりと「切り欠き」についての記述があり、切り欠きの部分を図で指し示した上で、その目的を「死者の歯をこじあける場合に使用する」と説明している。

各自による「認識票に関する達」の確認を求めたいが、自衛隊の認識票にもこの「切り欠き」があり、その理由が『死者の歯のこじあけのため』であるのは、なんとも合理的かつ感情的ではないだろうか。

この認識票の切り欠きの理由を、歯のこじ開けのためとするか、打刻のための固定ガイドのためとするか・・・それはあなた次第。ただし、自衛隊では生きていない者の口をこじ開けることに使うと明確に説明されているのである。

民間人が自衛隊の認識票を付ける場合がある

実は民間人もこの自衛隊の認識票を付ける場合がある。

体験入隊や体験搭乗などの参加者が自衛隊の航空機に搭乗する際は、この認識票が隊員より渡され、各自が首にかけるが、万が一の墜落時に遺体の身元を確認するための手段が、この認識票というわけだ。

参考とさせていただいた文献各種
http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/g_fd/1963/gy19630904_00048_000.pdf
http://www.kanji.okinawa.usmc.mil/News/060210-tags.html


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