自衛隊の曲技飛行隊は3部隊

自衛隊の曲技飛行隊……実は「ブルーインパルス」だけではないのだっ!

世界各国の軍ではアクロバット飛行を行う特別な曲技飛行隊を編成している。さまざまな国家的イベントの他、航空ショーにおいてアクロバット飛行を展示するのが彼らの任務だ。自国の納税者のみならず、同盟国や友好国においても、その高度な操縦技術をアピールすることも少なくない。

また、あまり友好的ではない周辺国にも示すことで抑止力を高めたい狙いがあるのだ。

世界的に有名な曲技飛行隊といえば米空軍のサンダーバーズ、同海軍のブルーエンジェルズ、イタリア空軍のフレッチェ・トリコローリが挙げられるが、我が国の自衛隊にも、今や彼らと肩を並べるほどに高度な技術を持つ曲技飛行隊がいる。航空自衛隊のブルーインパルスだ。

しかし、実は陸自と海自にも曲技飛行隊が存在することをご存知だろうか。

自衛隊には陸海空それぞれに曲技飛行隊が編成されている

それでは陸海空3自衛隊の曲技の展示を目的とする部隊をご紹介していこう。

海上自衛隊『WHITE ARROWS(ホワイトアローズ)』

海上自衛隊小月航空基地第201教育航空隊では、教官パイロットによる常設の曲技飛行隊『WHITE ARROWS』が編成されている。前身は90年代後半に臨時編成でスタートした『ブランエール(BLANC AILE)』で、2018年に海上自衛隊の広報活動を担うため、常設のアクロバット飛行隊『WHITE ARROWS』となって再始動した。

ブランエール時代の初等練習機T-5と誘導員。ブランエール・パイロット専用の赤いヘルメット。誰がシャアだ。海上自衛隊において初等操縦訓練を行う第201教育航空隊のコールサインは『rookie flight(ルーキーフライト)』を使用する。

小月航空基地には航空学校が所在し、海上自衛隊のパイロットを育成している。その教官の有志らが技量向上のために臨時で編成したのが当時のブランエールだ。

T-5による四機編隊での飛行展示の様子。画像の出典 海上自衛隊小月教育航空群公式サイト「WHITE ARROWS について」

機体は当然、小月基地で配備されるサイド・バイ・サイド式のコックピットが珍しい初等練習機T-5を使用する。日本国内外の曲技飛行隊ではスモークを使用することが多いが、WHITE ARROWSでは使用せず、比較的低高度での見事な空中機動だけで観客を楽しませてくれるのだからスゴイ。

陸上自衛隊『ブルーホーネット』

一方、陸上自衛隊には最新型初等練習ヘリ・TH-480B(エンストロム480B)によるブルーホーネットがおり、こちらも人気。

えええ。これが本当に陸上自衛隊の新型制式ヘリ?本当です。Dr.コトーではありません。

TH-480BはOH-6Dの後継機として2011年2月から陸上自衛隊明野航空学校および航空学校宇都宮校で調達が開始された最新型の練習ヘリ。配備数は両校あわせて30機。普段は操縦学生への教育に使用されるが、臨時的に教官たちによるアクロバットチームが編成され、記念式典で編隊飛行を披露するのだ。

前身はOH-6D時代に結成されたアクロバットチーム「スカイホーネット」。

TH-480Bのカラーリングは陸上自衛隊機でありながら、民間機風の鮮烈なメタリック”ブルー”となっており、そのまま曲技機に転用できるのは強み?

いずれにせよ、ヘリによる曲技飛行隊は世界でも珍しい。

航空自衛隊『ブルーインパルス』

ブルーが現在使用するT4。愛称ドルフィン

正式名称『航空自衛隊第4航空団飛行群第11飛行隊』、通称ブルーインパルス(Blue Impulse)である。

ブルーインパルスの歴史は数十年にも及び、またそのレベルの高さと技量は世界の諸外国軍の曲技飛行隊と比べても引けを取らない。

白地に鮮やかな青のストライプを描いた機体はまさに青い衝撃破と呼ぶにふさわしい

彼らは日夜厳しい訓練を行うとともに航空自衛隊の航空祭のみならず、オリンピックの開会式など民間行事においても展示飛行を行っており、多くのファンがいる。

美しい青空を背景に白いスモークのコントラストが何より美しい。

ブルーインパルスではエンジン双発、油圧・操縦系も2重で安全性の高い練習機T-4を使用する。発足当初は当時の主力戦闘機であるF-86F戦闘機や国産練習機T-2を使用した。

かつてブルーで使用されていたT2練習機後期型。戦闘訓練での使用や、補助戦闘機としての運用も構想されていたため、練習機でありながら機関砲を搭載している異色の機体。練習機としては優秀だったが、曲技機としては旋回半径の大きさから種目が限られた。

現在、ブルーでは丸みを帯びた可愛らしいドルフィンデザインの国産練習機T-4を使用するが、ブルーで運用されるT-4は戦技研究仕様機と呼称する特別機だ。

低空を飛ぶことが多いため、空中でのバードストライク(鳥との衝突)対策として、キャノピーが強化されているほか、本来ガラス製のヘッドアップディスプレイがプラスチック製に変更されている点が通常機との違いだ。さらに曲技を行うために必要不可欠なスモーク発生装置はもちろんのこと、低高度警報器なども追加搭載する。

二人乗りの亜音速中等練習ジェット機T-4。88年から納入され、これまでに212機が生産された。

翼の下にはハードポイント(機外兵装ステーション)と呼ばれる兵装類の吊り下げ用スロットが設置されており、外部燃料タンクのほか、ブルーインパルスのパイロットが他基地で展示飛行をする場合などは私物や手荷物、連絡用書類などを入れた金属製の旅行カバンをぶら下げて飛ぶ姿も珍しくない。ただ、正式にはカバンではなく『トラベルポッド』と呼ぶ。

また有事の際はガンポッドを翼下に吊り下げ、攻撃機への転用も可能だが、音楽隊が銃を持ち戦闘に参加するのと同様に『そんなことするまでになったら自衛隊の戦況は相当やばいことになっていますわよオホホ』とされ、実際には運用されない可能性が高い。

T-4が全体的に丸みを帯びているその理由は空力特性を考慮した設計のためだ。パイロットの卵を育成する亜音速のジェット練習機としては抜群の安定性を持っている。

なお戦闘機からパイロットが脱出する場合、通常なら火薬でキャノピーを吹っ飛ばしてから座席を射出させるが、T-4の場合はハリアーと同じくキャノピー破砕方式をとる。

シグマの超広角レンズでも、う、写しきれない・・・。

本来、T-4は2名乗機だが、ブルーでは各機、パイロット一名のみ。またブルーには専属の整備士もおり、T-4がイルカに似たデザインから彼ら整備士は「ドルフィン・キーパーズ」と呼ばれている。防衛省によれば、彼らの任務は『操縦以外のすべて』となっている。

なお、現在のところブルーインパルスに女性パイロットはいないが、航空自衛隊では2015年に女性自衛官の戦闘機パイロット任用制限を解除したことから、将来的にはブルーインパルスにも女性パイロットが誕生するかもしれない。

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ブルーの曲技飛行は主に国内各地で行われる航空祭で披露されるが、時として国外で展示される場合もある。初の国外遠征は1996年。曲技の本場、アメリカ空軍から航空自衛隊のブルーが招待を受けての初遠征だった。

大きな爆音とともに空高く舞い上がり、高速かつ複雑に絡まるツタのように、米国の大空に描かれるスモークの航跡は繊細で、アメリカ人らも思わず、息を呑んだという。

ブルーが披露するさまざまな演技とは

ブルーの編隊のうち、5番機と6番機は”ソロ”と呼ばれ、もっとも派手な演目を演じる花形役者である。さらに5番機と6番機は離陸直後に天候調査を行ってアクロバット飛行が可能な区分を決める。この天候調査によって、当日の演目も決まるのだから重要な役目を背負っている。

曲技はすでに離陸と同時に始まる。4機でダイヤモンドの形態を作りながら離陸する『ダイヤモンド・テイクオフ』。

そしてバーティカルキューピッド&スタークロス。スタークロスは5機のブルーが急上昇し、5方向に広がり、大空に「星」を描くダイナミックな演目だ。一方、バーティカルキューピッドは2機のブルーインパルスがハートを描き、もう1機が左下からハートマークの中央を突き抜けて”スモークの矢”を描く情緒性の高い演目だ。

そして、これらの演目を締めくくる伝統の技が”ローリング・コンバットピッチ”、通称ロリコンである。F-86F時代から歴代のブルーがフィナーレを飾る演目だ。コンバットピッチ自体は元々、れっきとした軍用機の戦闘機動である。

可能な限り低空を高速で飛び、基地の上空で急上昇しつつ速度を落とし、そのまま一気に着陸することで敵の追撃を回避するという戦闘技術の一種なのだ。それを曲技としてアレンジしたのが”ローリング・コンバットピッチ”というわけである。

ブルーをめぐるこぼれ話

2013年5月12日、当時の安倍晋三首相が東日本大震災の津波で被害を受けた航空自衛隊松島基地の復興の記念としてブルーインパルスの機体に試乗したが、この際に首相が試乗した機の機体番号が731号機だったことが気に食わないとして韓国人が怒ったそうだ。

自衛隊の曲技飛行隊のまとめ

このように、3自衛隊ではそれぞれに曲技飛行隊がおり、主に広報のためにアクロバット飛行を披露するのだ。

一見こうした”曲技飛行のための部隊”の編成は軍事組織にとって余計な費用を生み出すのではないかと思われるかもしれない。しかし、彼らの根本的にあるものは戦技の研究である。元来、ブルーは空中戦を研究するための部隊として設立されたものであり、曲技飛行が主目的ではなかった。

つまり、曲技飛行における密集した編隊飛行、急旋回、急上昇、それに耐えうるパイロット個々の飛行技術は、そのまま空中戦の技術が高いとも言い換えることができる。このような極めて高い技術による曲技を行うことのできる部隊の存在は、日本の航空戦力の一端を示すものであり、抑止力として決して存在をおろそかにできないのである。

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