自衛隊にも諜報や防諜部隊はある?

世界各国では政府機関や軍事組織の中に情報機関(Intelligence services)が設置され、自国の国益を守るために防諜や諜報といった映画さながらのスパイ活動を繰り広げている。

インテリジェンス (Intelligence)と一言で言っても、各政府機関ではとらえ方や手法が違う場合もあるが、この項目では国際的に行われている諜報機関の手法と軍事組織における防諜とを併せて取り上げた。

日本政府が設置している情報機関

わが国の情報機関として、内閣情報調査室、公安調査庁、警視庁公安部ならびに各道府県警察本部の警備部公安課、外事課などが組織されている。

このうち、内閣情報調査室(通称・内調)は官邸直属の情報機関として内閣情報官の指揮の元、内閣の重要政策に関する情報を収集・分析して官邸に報告し、官邸の政策決定に関する事務並びに特定秘密の保護に関する事務を行っている。

職員は警察や自衛隊など他省庁からの出向者によって人員の大半が構成されている。内調には外国のスパイから日本の公務員と機密情報を保護する任務を帯びたカウンター・インテリジェンス・センターが設けられている。

また、内調では外部のシンクタンク(財団法人や社団法人)や報道機関(NHK、共同通信社)、オシント機関(ラヂオプレス)などに活動費を支給して調査活動の一部を委託する例もある。

さらに外務省でも海外で多くの情報収集活動を行っている。外交官が行う場合が多いが、都道府県警察の警察官が外務省に派遣され、日本の在外公館に勤務して現地の情報収集を行うケースも多い。

これら国家およびその政府のインテリジェンス機能を果たす機関の総称をインテリジェンス・コミュニティ (Intelligence Community)と呼ぶ。

インテリジェンスとインフォメーション

一般的に公的な情報機関が収集および選別、分析などをしているインテリジェンスとインフォメーションとは具体的に以下のようなものだ。

インテリジェンス

収集されたインフォメーションを加工、統合、分析、評価及び解釈して生産されるプロダクト。分析されたインテリジェンスは、国家が安全保障政策を企画立案・執行するために必要なデータとなる。広義におけるインテリジェンスとは、生産されるプロセス、工作活動、防諜活動、そして情報機関そのものまで含めて呼称する場合もある。

インフォメーション

インテリジェンスのもととなる、ソースそのもの。報告、画像、録音された会話等のソースで、未だに加工、統合、分析、評価及び解釈のプロセスを経ていないものを言う。

諜報や防諜活動を支える各種手法

上記のような情報を入手するために、各国の情報機関は以下のような活動を行っている。

ヒュミント (Human Intelligence : HUMINT)

人的な情報源(ソース)から情報を入手するインテリジェンス手法。自組織内の職員や民間人には聴取を、そして敵対組織の人間や捕虜には尋問を行う。ヒュミントのすべてが合法のもとで行われるとは限らない。カネや異性による懐柔、またはそれをネタに強請ることによって機密を要求する所謂『ハニートラップ』もヒュミントの一例。実際に日本で確認された事例では上海総領事館員が中国当局者から謀られた上で脅迫を受けた事件、海上自衛隊対馬防備隊内部情報持ち出し事件がある。2013年には自衛隊情報本部で外国文献の翻訳を担当する60歳代の再任用女性事務官が中国人イケメン留学生のスーパーの店員に引っかかり、部内資料を渡そうとしていた疑惑があると週刊誌2誌が報じた。二人の出会いは雨降りのスーパーの店先。中国人イケメン留学生が自衛隊女性事務官に雨傘を差し出すなどロマンチックな出会いだったが、女性事務官は相手の正体を知ってか知らでか、その後2回飲食。気づいたときにはもう遅く、中国人留学生に自衛隊女性事務官は手篭めにされたのか、自身のリュックサックに防衛省部内限りの資料を入れて部外へ持ち出そうとした。だが、その寸前、庁舎内にリュックを置き忘れたことで発覚。結局未遂に終わり、女性事務官は注意処分を受け退職した。週刊文春の報道では、情報本部の調査担当官が女性事務官のパソコンを調べたところ「彼に中国やアメリカの最高の分析を届けたい」という文書が残されており、中国人留学生と親しく交流していた事実が発覚した。

シギント (Signals Intelligence:SIGINT)

通信などの信号を傍受解読および分析する諜報活動の総称だ。シギントにはレーダー波の傍受解析を行うエリント(ELINT:Electronic intelligence)のほか、海中に設置されたセンサーおよびソナー等を用いて相手国の潜水艦などが発する音響を収集するアシント(ACINT:Acoustic intelligence)などがある。そして主に無線や電話などによる会話・信号(Signals)の傍受による諜報活動を「コミント」(COMINT:Communication intelligence)と呼ぶ。シグナルとはすなわち有線電話・無線通信の信号であり、それらを傍受して解読することが任務。暗号を解読せずとも、複数の傍受施設(シギント施設)による方位測定によって発信源を特定し、過去のデータと付き合わせれば、相手側の意図をほぼ特定できる。ただし、発信源や内容を偽装されることもあり、一筋縄ではいかない。自衛隊では各通信所が通信傍受を担っており、鳥取県にある自衛隊美保通信所は工作船事件当時、北朝鮮当局と工作船との交信を傍受している。北朝鮮当局が国外の工作員へ指令を出す場合、新人工作員へはA3放送による音声読み上げによる指令、ベテランに対してはモールス(CW)が多いという。なお、警察庁でも情報通信局の通信所が、主にロシア・中国・北朝鮮関連の無線通信を傍受、解読、発信源を特定するなどのシギント活動に普段従事している。

イミント (Imagery Intelligence:IMINT)

軍事衛星や偵察機、ドローンなどで撮影された写真画像(イメージ)のソースから情報を得る活動。またそれらを分析するインテリジェンスも含まれる。「イマジント(IMAGINT)」と呼ぶこともある。自衛隊は偵察機や無人機ドローンを使ってイミントを行う。また、内閣衛星情報センターが情報収集衛星を使用してイミントを行っている。アメリカでは政府機関のほか、役割は異なるが、北朝鮮によるミサイル打ち上げ準備や核実験を民間商用衛星で常時監視しているシンクタンク・38ノース(38 North)が行っていることで有名だ。

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オシント (Open Source Intelligence:OSINT)

一般的に公開されているテレビのニュース、雑誌、インターネットといったメディア等のオープンソースから情報を入手する。公開資料からのソース入手であれば、あくまで合法な手法である。内閣情報調査室から調査委託を受け、中国や北朝鮮国内のラジオ放送やテレビ放送を聴取し、翻訳および分析のうえで政府に情報を提供している一般財団法人ラヂオプレスのモニタリング業務がこれにあたる。ラヂオプレスの新卒向け採用情報によれば『ラヂオプレスは、海外ニュースを扱う日本で唯一のオシント機関(モニタリング・サービス)として、70年以上にわたり諸外国の公開情報をモニターしています』とのこと。ラジオライフではない。ラヂオプレスはもともと、外務省ラヂオ室という一部門であったが、その後に同省所管の外郭団体を経て、現在は内閣府の所管となっている。新宿のど真ん中のビルに事務所があり、屋上に展張させたワイヤーアンテナやログペリアンテナ、そして日本無線のNRD-535受信機でモニターと呼ばれる職員が北朝鮮の国営放送などを日々傍受している。無論、北朝鮮にも国営の海外向けラジオ放送局・平壌放送の中に同様のオシント部門があり、アメリカや日本のラジオ、テレビ放送をも視聴して分析している。アニメも分析しているのだろうか。それはパンツではなくズボンだ。

セキュリティ・クリアランス(Security Clearance)

機密情報を扱う公的機関職員に対して、その適格性を検証する作業。すなわち、その者が組織にとって信用するに値するか見極めるための身元調査である。日本では平成21年(2009)から各行政機関に秘密取扱者適格性確認制度が導入されており、各官庁職員である本人をはじめ、その親族も調査対象となっている。親戚筋に警察や自衛隊の『人に言えない部署』に勤める者がいれば、ある日突然、誰かに監視されたり、国に自分の調査票提出を求められることもある。つまり、そういうことだ。親族を含めた調査の結果、不適格と判定されれば、さらなる重要任務に就くことは許されない。

日本の主な情報収集活動はシギントとエリントの二つ

このように諸外国ではさまざまな手法を駆使して情報収集活動を支えている。しかし、ジャーナリストの櫻井よしこ氏が発表した2003年度のコラム「岡っ引国家にはなるな」によると、当時の日本のインテリジェンス・コミュニティでは人的情報集活動であるヒュミントのみは存在しなかったという。櫻井氏はエリントやシギント、イミント、オシントなど、常に受け身の情報活動は日本が得意とするところだが、米軍に比べればレベルが低く、また能動的な手法たるヒュミントによる情報収集なくしては諜報活動は成り立たないと嘆いている。

前述したが、ヒュミントのすべてが合法のもとで行われるとは限らない。これが日本の当局にとってネックになっているのが真相だろう。スパイ防止のための法的根拠が無い現状では、各諜報機関の職員が人間を媒介として情報の収集を行うヒュミントを行った場合、手段によっては詐欺、恐喝、私文書偽造、迷惑防止条例違反などの違法行為に問われる懸念もある。

自衛隊の諜報・防諜機関

敵対する諜報機関や諜報活動、破壊活動またはテロに従事する個人・グループによりもたらされる安全に対する脅威を発見し、それに対抗するインテリジェンス活動を防諜(Counter Intelligence)と呼ぶが、我が国の自衛隊にも、オペレーションに関する情報を収集することを目的とした情報部隊と、部内情報の漏洩を防止するための防諜部隊の二つがある。

それでは自衛隊の”キスキスバンバン”を詳しく見ていこう。

防衛省情報本部(Defense Intelligence Headquarters)

非戦闘員の事務官と戦闘職の自衛官の混成組織で、2000人以上もの人員を抱える防衛省情報本部は日本最大の情報機関だ。画像・地理部、電波部など6つの部門がイミント、シギントならびにほかの省庁からもたらされる内外のインフォメーションを収集および分析し、情報に付加価値を与えていく作業を日々実施する。また巨大なアンテナ、通称『ゾウの檻』で知られる通信所も情報本部電波部の直轄施設で、北朝鮮や中国、ロシアの電波情報を傍受解析する。焼肉屋でキムチを味わいながら北朝鮮ミサイル情報の調査も行う。そんなことしてねぇよ。

陸上自衛隊「情報科」職種と中央/方面情報隊

陸上自衛隊には「情報科」という新職種が創設されたが、市ヶ谷駐屯地には約600名の隊員で構成される「中央情報隊」が編成されている。主に、陸自の作戦遂行に必要な情報の収集と分析を日々行う。

過去、陸上自衛隊の情報セクションは「混成職種部隊」として編成されており、さまざまな職種の自衛官や事務官、技官が混在していた。

3自衛隊の共同の部隊「自衛隊情報保全隊」

また、2003年に3自衛隊ごとに編成された「情報保全隊」は、2009年に3自衛隊の共同の部隊「自衛隊情報保全隊」として再編成され、こちらは主に防諜を目的としている。すなわち、自衛隊の部内情報が外部流出することを防ぐための部隊だ。

陸海空混成の部隊で、人員約1,000名規模。諸外国の防諜機関と同様、一般的なインテリジェンスのセクション、それに自衛官とその家族に裏切者、内通者がいないかその身上調査(差別的なので適格性調査と呼ぶ)を行い、思想信条などを調査するセクションで構成されている。

とくに、情報保全隊は隊員が結婚する場合、結婚相手本人やその家族の身上調査を部隊長要請で実施している。

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隊員はもちろんのこと、一般市民であっても、自衛隊に興味を持っていたりするならば『こいつ、敵なの?味方なの?気持ちいいの?どっちなの?』と監視対象になっている。

情報保全隊と警察は警備警察(いわゆる公安警察)が保全隊へ情報の提供をするなど、比較的良好な関係にあるという。

自衛隊の諜報・防諜機関のまとめ

自衛隊の諜報や防諜活動が表に出ることはないため、普段具体的にどのような活動をしているのか憶測の域を出ないが、諸外国の諜報員は優しい顔の下に隠した非情な振る舞いがセオリーなので、自衛隊の諜報部員もまたそうであるのかもしれない。AV会社と中国人店員によるハニートラップには要注意だ。

参考文献様

https://thinktank.php.co.jp/wp-content/uploads/2016/07/seisaku01_teigen33_00.pdf
https://dailynk.jp/archives/60171
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/53618?page=2