不正規戦に対応する陸上自衛隊特殊作戦群とは

世界各国の正規軍には能力に優れた兵士のみを選抜して編成した部隊がある。いわゆる「特殊部隊」だ。特別な訓練を受け、自らの誇りと国への忠誠心のみで生還率の低い困難な軍事作戦に命を懸けて臨む彼ら。

わが国の陸上自衛隊にもそのような特殊部隊は存在する。正式名称『特殊作戦群』。日の丸と剣をバックに鳶と榊の葉、それに桜星を配した意匠を持つ特別なバッジ「特殊作戦き章」を左胸に着けることを許可された特別な陸上自衛官らで構成された部隊だ。

【史上初】特殊作戦群の実働訓練画像を防衛省の正式公表前からオーストラリア軍側が公開→削除してSNSでは物議。その背景には何が?

陸上自衛隊に初の特殊部隊『特殊作戦群』が発足したのは04年。18年4月には中央即応集団から新編された陸上総隊の隷下となり、千葉県船橋市の習志野駐屯地に戦闘要員約200人、後方支援隊員100名規模で編制されている。

防衛大臣直轄の陸上総隊が方面隊から独立のうえで、直轄部隊を持つ理由とは?

隊員は隠密上陸に必要な空挺降下、水中浸透、とくに遠距離潜水などの能力に秀でた屈強な男性隊員のみで構成されるというが、実態は不明だ。

また、特殊部隊は不正規戦闘、すなわち高い対テロ能力も必要とされ、情報収集や欺瞞工作といった米軍のデルタフォースの行う同種の作戦に従事する可能性もある。

むしろ私服で民間人に紛れ、都会のコンクリートジャングルの中で秘密裏に諜報活動をしている可能性だってあるのだ。

特殊部隊といえば”迷彩服”を着用し密林を走破、サイレンサーを付けた小銃で目標を無力化、人質を救出、真夜中にヘリでピックアップされ帰還・・・・・・というハリウッド映画じみたイメージが先行しがちだ。

なお、海上自衛隊には特別警備隊と呼ばれる特殊部隊が編制されており、自衛隊では現在この二つの部隊が唯一の公式な自衛隊特殊部隊となっている。

海上自衛隊特殊部隊『特別警備隊』の装備と部隊概要

特殊作戦群の実際の任務は秘匿される

このように陸上自衛隊全部隊の中で随一、対テロ能力や人質奪還能力、諜報活動といった現代の不正規戦に対応しうる高い能力を備えた特殊部隊、特殊作戦群。当然、わが国防衛の最後のカードにも等しい存在であるため、部隊の実際の任務や詳しい装備品を現役隊員や除隊した元隊員が口にすることはないだろう。いや、できないのだ。

防衛省側では特殊作戦群の編成式典は公開しているが、その訓練や装備品は公開していない。したがって、ここに記載したものはあくまで諸外国の特殊部隊の運用や装備などから推察したものに過ぎないことをご了承願いたい。

“防秘”で秘匿された自衛隊の切り札部隊。元隊員が訓練や装備を口外することは違法か?

当然、陸上自衛隊きっての特殊部隊であることから、防衛省では特殊作戦群の部隊の詳細や訓練などは徹底的に秘匿している。いわゆる防衛秘密だ。

作戦用の拳銃『H&K USP TACTICAL』を来賓者に撮影させ、それが不本意な形(!?)でネット上にアップロードされた以外、ほぼ完全に秘匿しており、部隊についての写真や情報は「中央即応集団(現在の陸上総隊)」編成式典時の報道写真などを除いて一切ない。

日本の特殊部隊 2017年 03 月号 [雑誌]: ストライクアンドタクティカルマガジン 別冊

公けにできない顔貌、ザ・ファブルみたいな眼差し。彼らの任務の詳しい説明は要らないだろう。

その公開行事である編成式典で写真におさめられた彼ら特戦群の姿も、素顔をさらした指揮官とは対称的だ。隊旗を持つ陸曹は甲武装にバラクラバを被るという今までの自衛隊からは考えられない異様で不気味な姿だ。

このような隊員個人の顔貌の秘匿は単に雰囲気を煽っているのではなく、少人数のゲリラによるJR変電所、浄水施設や携帯基地局への侵入、警察機関なども利用するNTTドコモの通信網、電気事業者の鉄塔のボルト抜きなどといった都市部のインフラ重要施設に対する破壊活動、示威行為、コマンドゥ攻撃への対処や、対ゲリラ戦闘が主任務であることを暗に仄めかしているとも受け取れる。

また、部隊の概要や装備、訓練内容などは防衛秘密(自衛隊法第96条の2)に該当し、隊員には厳しい守秘義務(保全)が課せられているため、警察のSAT同様、特殊作戦群に所属すると親しい友人や家族であっても一切、口外できない。

それどころか、同じ自衛隊員であっても特戦群は所属を明かせない。「ウチの彼氏さんわ特戦群なんだけど訓練マジヤバイらしいょ。今度SATと一緒に東京オリンピックの警備するって言ってたし」などとtweetする方が仮に出たとすれば、単なるウソ松か、でなければ隊員が守秘義務違反を犯している可能性が無きにしもあらずだ。

自衛隊そのトランスフォーメーション―対テロ・ゲリラ・コマンドウ作戦への再編

「自衛隊そのトランスフォーメーション : 対テロ・ゲリラ・コマンドウ作戦への再編」(小西誠)

現在のところ、同部隊に関する断片情報は初代群長であった荒谷卓氏の著書などにより、少しずつ明らかになっていはいるものの、先述の事情から元隊員は口を閉ざしている。情報が乏しいため、軍事評論家の間でも特殊作戦群の装備や訓練は同盟国アメリカ軍の特殊部隊との比較から類推せざるを得ないのが現状だ。

特戦群は外国のどの特殊部隊を手本としたか?

特殊作戦群は同盟国軍たるアメリカ陸軍の特殊部隊「グリーンベレー」や、「デルタフォース」の編成・装備・訓練を手本に発足したとされる。

現在、日本国内にはアメリカ軍特殊作戦コマンドに所属する特殊部隊、グリーンベレーの隊員が約400人駐留しているが、特戦群では彼らとの共同作戦を視野に入れているためか、度々共同訓練を実施している。

ただ、米軍のデルタフォースと比較した場合、特殊作戦群とは決定的な違いがある。日本政府および防衛省が特殊作戦群の存在を公式に認めている点だ。特殊作戦群はオメガのような”自衛隊の員数外”の非公式部隊ではないのだ。

特殊作戦群の隊員に女性はいるのか?男性のみである可能性が高い

平成24年7月11日の防衛省男女共同参加推進本部決定によると、これまで自衛隊では一部部隊や職種において女性自衛官の配置制限が行われてきたが、2016年から2017年にかけて立て続けに戦闘機パイロットや、戦闘ヘリ、戦車隊員、普通科ナンバー中隊、海自特殊部隊に女性任用を認めるという方針転換を表明した。

女性自衛官を戦闘職種に就かせなかった理由とは?

特殊作戦群、追跡す! (下) (中公文庫)

特殊作戦群、追跡す!

しかし、陸自特殊作戦群においては女性隊員任用解禁の発表はいまだ無く、 レンジャー訓練にも女性隊員が参加を許可されたという話もないため、現在も特戦群に女性隊員が任用、配置される可能性は低いだろう。

黎明の笛 KDP版

元空自幹部の著者が放つ問題作「黎明の笛」。特殊作戦群が 竹島を“奪還”か!? そのとき航空自衛隊司令部は――?

イスラム国が日本人への明確な攻撃を表明。海外へ赴く日本人の安全は確保できるのか

2015年、イスラム国によってジャーナリストの後藤健二氏および、警備会社社長の湯川遥菜氏の二名が拉致される事件を受けて安倍総理が自衛隊による救出作戦を立案したとも一部で報じられた。しかし、その実現はならず、両名は命を落とした。

また、2016年7月1日にはバングラデシュの首都ダッカにおいてレストラン襲撃人質テロ事件が発生し、7名のバングラデシュ人テロリストにレストランで食事中の人々が次々と加害された。イタリア人のほか、日本人の男女7人、それに駆け付けた2名の警察官を含む20人が犠牲となった。犯人のバングラデシュ人のうち一人は日本国籍を持っており、日本国内の大学で教授として教職についていたほか、シャープ情報システム事業本部共同研究者を隠れ蓑に、テロの準備をしていた。

この事件でもイスラム国が犯行声明を出しているが、以前からイスラム国は日本政府がアメリカ政府とともにイスラム国をつぶすことを表明し、イスラム国と戦う近隣諸国に対して2億ドルを拠出することが気に触るとして『日本は明確な敵である』と意思表示しており、すべての日本国民は日本国内外問わず、見つけ次第必ず加害するという宣戦布告をしている。

すでに日本国内ではイスラム国の関係者と連絡を取っている者、またシンパとしてネット上でイスラム国の活動に支持を表明している者などは警視庁公安部や各道府県警察警備部公安課外事係が適宜リストアップして把握に努めていると山谷国家公安委員長は会見で述べている一方で、米政府の情報によれば、すでにイスラム国の傭兵として日本人も数人が参加しており、彼らが傭兵として訓練を受けて実戦を経験したのちに、日本へ帰国して国内でテロを敢行する可能性があるという。実際、すでに愛媛の日本人女性が外国籍の夫とともにイスラム国の勢力圏に入ったことが週刊文春で報じられている。

今後ますます、海外へ赴く邦人がテロに巻き込まれる可能性が高まっているが、自衛隊による救出作戦は現実的なのだろうか。

著名な軍事フォトジャーナリストの菊池雅之氏によれば、2013年に邦人10人が犠牲となったアルジェリア事件で、自衛隊特殊部隊が出動していれば、人質の多くを安全に救出できた可能性が高いと指摘。

「使用武器は銃身が短い小銃M4に夜間も使えるダットサイト(光学照準器)を装着したもの。暗視ゴーグルつきのヘルメットをかぶり、全身を黒い服で固めた特殊部隊は、テロ組織を一掃したでしょう。自衛隊は『100人の人質がいたら、100人を助ける』という動きを意識している。今回のように犯人がトラックに人質を乗せて移動しようとしたら、当然トラックのタイヤを狙い移動を止めます」(菊池氏)

引用元 女性自身公式サイト
http://jisin.jp/serial/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84/crime/6082

上記の記事では政治部記者が「現行法では、自衛隊が海外で邦人を輸送することに制限がある。隊員の安全が確保されているときに限られ、輸送手段は航空機か船舶に限られる。陸上での輸送ができない。さらに武器を使用する際は正当防衛に限られている。この点を改正しなければ」と指摘している通り、アルジェリア事件まで自衛隊は、海外でテロや紛争に巻き込まれた邦人を救出するといった場合は、船または航空機による輸送しか行えなかった。

陸上を自衛隊の装甲車両でコンボイを組んで人質となった人たちを防護しながら空港または港まで連れてこられなかったのだ。

しかし、日本政府はアルジェリア事件の起きた同じ2013年に在外邦人保護のための陸上輸送を可能とする自衛隊法の改正を行なった。アルジェリア人質事件を踏まえての改正だ。

これにより、陸上自衛隊は邦人救出のための新装備としてオーストラリア製の「輸送防護車」を新たに配備している。

アルジェリア人質事件と自衛隊法改正で陸上自衛隊に『輸送防護車』新配備

特殊作戦群はヤバイ現地の情報収集も任務とする

自衛隊が海外活動するに先立ち、現地の治安に関する情報の収集を行う必要がある。それを担うのが特殊作戦群だ。実際、イラク復興支援にかかる部隊派遣では本隊派遣前に特戦群隊員がサマワ周辺の治安情報収集を行ったとされている。

近年のソマリアのアデン湾における海賊対処行動においては、海自航空隊が活動拠点のジブチへ派遣されているが、海自基地警備のため、陸自からは第1空挺団の隊員50名程度も派遣された。今回の派遣でも事前に特殊作戦群が現地の情報収集にあたっていた可能性は十分に考えられる。

自衛隊施設のテロ警備チェックも任務

このように特殊作戦群は戦闘だけでなく、偵察や情報収集も主要な任務となっているが、一方で日本の軍事アナリストで株式会社危機管理総合研究所代表取締役所長、特定非営利活動法人「国際変動研究所」理事長、静岡県立大学グローバル地域センター特任教授である小川和久氏によれば、特殊作戦群はラーメン屋の出前もちに変装して駐屯地へ侵入するなど、自衛隊施設のテロ警備チェックも行っている。

このときは出前のオカモチ内に仕掛けられた発炎筒が火を噴いたという。そんな岡持ちありえません。

典拠元 http://sriic.org/backnumber/20110519.html