自衛隊の演習で喫食される「戦闘糧食」って?陸自ではカンメシのI型がついに廃止へ!自衛隊の次世代野戦携行糧食を徹底解説!

1990年から導入されている戦闘糧食 II型とは

さて、戦闘糧食I型に続き今度は戦闘糧食Ⅱ型をご紹介いたします。先に紹介したI型は自衛隊において1951年から長らく、現在まで戦闘糧食として主力でした。

しかし、缶詰タイプの宿命として現場の隊員からは重い、かさばる、缶きり必携(少量ですが缶切りが付属しています)、暖めるにも手間がかかるといった不満が出ていました。

一般に戦闘糧食に求められる条件は、持ち運べることが前提であり、軽量であること、梱包が規格化されていること、長期保存が利くこと、調理をせずとも戦闘任務に就く兵士が短時間で喫食でき、高カロリーを摂取できること、ゴミが出ないことなどが挙げられますが、実際に”食べる側”である兵士にとって重要なのはやはり、味と言えるでしょう。

当然ながら、自衛隊では当時から納入メーカーに対し、仕様書のなかで「食材は新鮮かつ、味はもちろん美味しくなきゃダメだかんねっ!」と仕様要求をキッチリと提示しています。

典拠元 防 衛 省 仕 様 書 改 正 票 D S P N 5006F(3) しいたけ飯缶詰

http://www.mod.go.jp/j/procurement/chotatsu/nds/pdf/n/n5006.pdf

でも不味かった。

そこで90年代、装い新たに登場したのが、味がすこぶる向上したレトルトパックタイプの戦闘糧食II型

パックタイプなので手軽に開封でき、袋を手づかみにしてハシもスプーンも使わず搾り出すように(上に押し出すように)食べれば勝手も良く、なによりII型はメニューが豊富で味が良く、多くの隊員に歓待の念を持って受け入れられたのです。

ただ、必ずしもレトルトパックのII型が全ての面において優れていることもなく、カンメシの賞味期限が3年に対して、II型は1年しかありません。

長期の保存に関してはカンメシに軍配が上がるようです。このことから、1型はII型と同時配給となっていましたが、前述のとおり、2016年、陸自がI型の新規調達をやめてII型に一本化すると決定しています。

II型(レトルトパック)の気になるメニュー は?

主食は 缶飯と同じく、ご飯モノ。オーソドックスな白米パック&赤飯パック、それに変わり飯として五目御飯パック、豆しか入ってない豆ご飯パック、ドライカレーパックがあります。

おかずには、酢豚、ビーフカレー、チキンステーキ、 ビーフハムステーキ、ハンバーグ、鮭の塩焼き、鯖生姜煮などがあります。

それに副菜として高菜漬け、ポテトサラダ等の各パック。汁ものも充実です。日本人の心である、おみそ汁をはじめ、ワカメスープなど。

このようにバランスよく、肉料理、魚料理など栄養に配慮されたメシとなっています。何よりうれしいのは「カンキリ不要」仕様でしょうか。

しかし、包装は民生品とは違って空中投下まで考慮された自衛隊独自の規格で厚めになっており、破れにくく丈夫さを誇るII型は手で開封するのは至難の業。ナイフを使います。

隊員の評判は上々

カンメシはまずかったけれど、現在主流になっているレトルトパック・タイプの戦闘糧食II型は美味いと隊員からも好評。特徴的なのが、味付けが濃かったカンメシ比べてマイルドに。実際、市販のレトルト食品を流用したもので、味もほとんど市販のものと変わりません。しかし、やはりカロリーはお高め。高カロリーにするのは日本だけでなく、各国の野戦用携行糧食においても、運動量の多い兵士のためそのように配慮されていますから日本が特別ではありません。

便利な加熱剤も付属!

戦闘時など逼迫した状況によっては、温かい飯をほおばっている余裕も機材もないかもしれません。しかし、冷たいご飯は食べたくないものです。たとえそこがイジメの戦場である中学校の便所や実弾飛び交う戦場であっても。

さて、自衛隊で配給された戦闘糧食は野外炊具によってすでに一度加熱されていますが、冬場などは必要に応じてまた温めることもあります。再加熱しなければ、ツライですからね。

その加熱時に使用するのが付属の簡易加熱剤。加熱剤を入れた袋にレトルトパックを放り込み、通常は20分程度温められて喫食します。

これこそが、過熱には器具(鍋や野外炊具)がいるので不便とまで陸自に言わしめ、陸自で廃止となった戦闘糧食I型にはない利点と言えるでしょう

戦闘糧食の製造会社はドコ?“ミリメシブーム”の火付け役!?

戦闘糧食を製造して納入しているのは献立ごとに複数のメーカーがありますが、ハウス食品などおなじみのメーカーも製造を請け負っていてちょっと意外。

陸上自衛隊に正規に納入されている戦闘糧食II型の複数の献立のうち、製造販売元は武蔵富装というメーカー。

弊社は「平成16年」から戦闘糧食の開発研究を継続的に実施し、その成果が認められ平成20年から陸上自衛隊の戦闘糧食として正式に採用され、平成27年までの7年間で約530万食の戦闘糧食を納入しております。

引用元 武蔵富装公式HP
http://musashi-fusoh.com/sentou.html

現在、同社が陸自と海自の各種糧食のうち、担当する献立は下記のもの。

【陸自】戦闘糧食II型 さんまピリカラ煮
【陸自】戦闘糧食Ⅱ型 かも肉じゃが
【陸自】戦闘糧食Ⅱ型 とり野菜煮
【陸自】戦闘糧食Ⅱ型 ウインナーカレー
【陸自】戦闘糧食Ⅱ型 チキントマト煮
【陸自】戦闘糧食Ⅱ型 ハヤシハンバーグ
【陸自】戦闘糧食Ⅱ型 中華風カルビ
【陸自】非常用糧食 さんまピリカラ
【陸自】非常用糧食 すき焼ハンバーグ
【陸自】非常用糧食 かも肉じゃが
【海自】軽包装糧食 和食セットかも肉じゃが

美味しそうなメニューが並んでいますよね。そして、同社では市販の”ミリメシ”として、防災糧食を販売もしています。これがその、かわいい”ミリメシ”。

survivalpack-main

実は今、一部界隈でこれらの戦闘糧食が「ミリメシ」と呼ばれ、静かなブームを起こしているのを皆さんはご存じでしょうか。

それが「萌えミリメシ」。

内容物は武蔵富装が納入している自衛隊のレトルトパックタイプの戦闘糧食とほぼ同等のようですが、迷彩の外箱には萌え萌え女性自衛官の絵が。自衛隊でも演習や訓練時において、市販の携行糧食が臨時に増加食として配給される場合があります。さすがにこれが出ることは。

あつあつ防災ミリメシ(6箱入り)セット-ウインナーカレー

あつあつ防災ミリメシ(6箱入り)セット-ウインナーカレー
B00986LZKG | 武蔵富装 |

米軍のMREをご紹介

さて、自衛隊の同盟軍である米軍の戦闘糧食事情も軽くご紹介いたします。

現在、時代の先端を行くアメリカ軍ではMRE、もしくは「Cレーション」と呼ばれるパック包装されたレトルト戦闘糧食が兵士に支給されており、自衛隊の戦闘糧食2型と同じスタイルを取っています。

米軍での戦闘糧食スタイルは瓶詰めや缶詰から始まり、今ではこのタイプのMREが主に配給されています。

ところが、その味はすこぶる不味く、兵士らには不評で「誰もが食べることを拒否したメニュー」とか「食べ物に似た何か別の物」など酷評もいいところだったそうです。初期のMREが最もひどい評価を受け、年々改善されはしたものの、現在も兵士からは良い評価を得られていません。

一説には、美味にしてしまうと平時に兵士が嗜好品としておやつ代わりに食べてしまうので、あえて味を悪くしているという説もあります。

このような開発構想は実際にアメリカ軍では行われており、ギブミーチョコレートでお馴染みの米軍用チョコレートはまさにそいった理由からあえて不味くしています。

MREのメニューは現在20種以上と豊富で、メインディッシュにはチキンやビーフなど肉類を配するほか、マカロニやケイジャン料理の「ジャンバラヤ」などもあり意外と豪華。おどろくべき特色として、ベジタリアンメニューもあります。

さらに瓶詰タバスコにソルト、シュガーなど調味料やサイドメニューも充実の品々でクラッカー、コーンフレークバー、パンケーキなどいずれかのスナックが付属。味付けにピーナッツバターなど気が利いている。デザートにはゼリー、チョコレート菓子、ガムなど。飲料として粉末ジュース、インスタントコーヒー、ココアなども同梱されています。この記事を読んでいる読者の女子高生なら誰でも知っていると思いますが、食後に甘いデザートを食べる理由は血糖値を上げることで満腹感を向上させるためです

年代とともに味は改善されたということですが、ショッキングピンク色の粉末ジュースの色もさることながら、味はまるで合成洗剤に例えられ、日本人の好きなことで生きてゆく好奇心旺盛な若いミリタリーフリークスの間でも、その味には苦笑い。

2017年の日米共同方面隊指揮所演習ヤマサクラでは日米文化交流の余興として、自衛隊と米軍がミリメシの食べ比べを行ったのですが、米軍のMREを喫食した陸上自衛隊東北方面隊所属の3人の男女自衛官は怪訝な顔でMREのパッケージのメニューを読んだり、顔を顰めたり、女性自衛官はオエーッという表情を浮かべています。

余談ですが、田辺節雄さんのコミック「続・戦国自衛隊」でも書かれており、ヘリのパイロットの隊員が詳しく説明してくれます。戦国時代へタイムスリップした現代の自衛隊員たちは戦国時代の質素な食事を食べ続け、健康的な生活習慣になっていたところに、突然米軍のMREレーションを食べたので「高カロリーでお腹がゴロゴロになり、隊員たちが次々と厠(かわや)に駆けこむという面白いオチがついてます。

これら実物のMREレーションは通信販売で日本国内でも流通しており購入が可能です。

なお、レーションとは糧食のみならず、軍隊が兵士に支給するマッチ、タオルなど配給品全般を指すものであり、レーション=戦闘糧食ではありません。

そういうわけで、アメリカ軍と自衛隊の共同演習では自衛隊の”味の良い”戦闘糧食を欲しがる米兵も多いようです。

戦闘糧食II型のまとめ

  1. 味とメニューの豊富さはII型の圧勝。
  2. 袋は市販品より約2倍ほど厚く丈夫。
  3. しかし、外装の耐久性や賞味期限はカンメシの圧勝。
  4. 加熱用ヒーターも付属。
  5. 米軍兵士も合同演習でほしがるこの美味さ。
  6. 2016年、陸上自衛隊がI型からⅡ型に全面移行。

このようにまとめました。

参考書籍
別冊ベストカー 陸自マニア! 三推社/講談社 2007年刊
そこが変だよ!自衛隊 大宮ひろ志