さて、自衛隊の食堂のメシに続いて、自衛隊の演習で主に喫食される戦闘糧食に詳しく迫ってみましょう!
いわゆる缶詰形状になった「携帯できるご飯」である戦闘糧食。現在、自衛隊では缶詰タイプの戦闘糧食I型および、レトルトタイプのII型を隊員の野戦携行糧食として配給しています。
I型は長らく自衛隊の野戦用糧食として配給されており、お味については評判が良くないモノの、3年という長期の保存性能に優れています。
通常は駐屯地で2年間保管され、3年目に演習などで各隊員に配給され喫食する運用がとられています。
配給された戦闘糧食は各隊員が自分の責任において処理しなければなりません。「食いきれない場合は実家に持って帰れっ。ただし、売ったら警務隊な」って事。
なお、これら糧食の調達にはいずれの場合も、あらかじめ師団の需品科と調整が必要となり、その調達調整に失敗すると、隠し在庫からタクアン缶ばかり配給されたりするので、隊員からとみに恐れられています。
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戦闘糧食I型の特徴
戦闘糧食I型は大型の缶が主食の飯で、小型の缶がおかずですが、外装は擬装のため艶消しの暗緑色(OD色)になっており、野外でも目立たないように工夫されています。しかし、過去の資料を見ると、90年代の初頭ごろまではブリキの金属缶そのもので無塗装でした。これでは野外で目立つため、現在の様に暗緑色になっています。
缶にはゴシック体で「赤飯」など各種メニューが記載されています。いかついODの金属缶からは浮いた感じがするので、ここはやはり、明朝体で威風堂々と表記されていてほしかったような!?
なお、缶の開封には缶切りが必要ですが、6個にひとつ、簡易な缶切りが付属しています。しかし、隊員は私物のウェンガーやビクトリノックスの10徳ナイフの缶切りでささっと開けています。
戦闘糧食は配給の前に温められる
缶入りの戦闘糧食を温めないでそのまま食うと、あまりおいしくないどころか栄養的にも吸収されにくく、体にも悪いため湯煎をします。湯煎をすることで白米がα化(でんぷんの化学的変化)され、美味いうえに栄養価もマル。一度湯煎すると2,3日は常温でも真冬でも大丈夫。
戦闘糧食の缶は重箱のように「入れ子形式」
缶は重箱のように「入れ子形式」になっているので、食べた後は非常にコンパクトに処理できるのも優れています。陸上自衛隊では食べ終えた缶の数から部隊規模を敵に推測されることを防ぐ目的で、缶を土中に埋めるように教育していますが、演習ではきちんと回収されリサイクルされています。
メニューとお味は?
さて、最も気になるメニューとお味ですが、カンメシの主食には白米、赤飯、五目飯、とり飯、しいたけ飯があります。なお、ビニールパックされたカンパンもあります。
おかずにはウインナーソーセージ缶、ます野菜煮缶、たくあん漬缶、まぐろ味付缶、福神漬け缶、味付ハンバーグ缶各種があります。たくあんは納入先メーカーの廃業により、一時途切れましたが、現在では新たなメーカーによって製造が続けられています。
特徴としてメニューのそのどれもが塩辛く味付けされています。味付けハンバーグ缶はとくに冷えると「すごい味」になるので絶句、いえ、絶品。
また、もち米を利用することで腹持ちを良くしてあり、カロリーも高めに設定されています。そのせいか、胸焼けするんだがという隊員の声もあります。
とまあ、味付けが濃く、カロリーも高く、胸やけもしたりと、評判は決して良くないものの、たくあんだけは別格だといいます。
なお、これらカンメシの組み合わせは、陸自と海自では運用が異なっており、陸自ではカンメシの組み合わせを選ぶことができません。
戦闘糧食に入っている乾パンとクラッカーについて
さて、旧軍の頃からの軍用糧食の代名詞としては、やはり乾パンが挙げられるでしょう。カンパンも民生品と味も仕様も同じ。袋には自衛隊のマークが入っています。
カンパンはオレンジスプレッドと呼ばれるオレンジ(いよかん)味の水飴のチューブ、または金平糖のおまけ、そしてソーセージ缶がセットになって配給され、むかしはレバーペーストのチューブもあったそう。
陸自と海自でも配給が今なお続けられており、陸自ではカンパン自体に甘味が無く、唾液の分泌を増やすためか、甘い金平糖の”おまけ”がつきます。
しかも行軍中や移動中の喫食を考慮し、小型にして口に放り込めるように配慮されているのが特徴です。
一方で海自の乾パンはデカく、さらにカンパン自体に甘味があるのが特徴。
また、採用当初はクラッカーが主食のパックが6種あったそうですが、現在では1種類のみです。
東日本大震災での戦闘糧食と泣ける話
2011年3月11日に発生した東日本大震災で、被災者に自衛隊が到着直後、第一に配ったのもこれら戦闘糧食でした。
その後、資材が整うと野外炊飯車で調理した温かい食事を供することができましたが、陸自と空自では「被災者の前で赤飯を食うわけにはいかない」として54年前から配給が始まった「赤飯」がメニューから消えることになりました。
実は派遣された隊員らは派遣中、被災者には野外炊飯車で作った暖かい出来立ての食事を提供する一方で、自分たちはこれら戦闘糧食を食べていたそうです。
被災者の「温かい食事」をまず第一に考え、自分たちのメシの準備は後回しという姿に頭が下がる思いです。もっとも、自衛隊でも災害派遣では赤飯をなるべく使わないよう、これまでも配慮されてきたのですが、今回のように派遣規模の大きな震災では備蓄された糧食をすべて使わざるを得なかったそうです。
なお、海上自衛隊では艦艇内での食事が多いとして赤飯の廃止は見送られています。自衛隊の災害派遣を裏から支えた「戦闘糧食」。偉大なり。
「自衛隊とカップラーメン」のエピソード二つ
さて、自衛隊の演習では超ハードな訓練中に臨時配給されるメシ、その名も増加食として、隊員に即席めんが配給されることもあります。
山で湯を沸かして食うカップ麺は格別だとキャンパーはよく言いますが、そんな自衛隊の演習とカップラーメンの話には、少し興味深い話があります。
日清・カップヌードルといえば、しょうゆベースの味付けにスパイシーさをくわえ、日本人をひきつけてやまないド定番カップめんですが、発売当初はオーストリアのグロックの様になかなか一般に受け入れられなかったそうです。そこで日清は1971年(昭和46年)に警察や消防など24時間体制を敷いて夜勤の多い職場に売り込みをはかったのです。そして「カップヌードルの最初の顧客」となったのが何を隠そう、自衛隊だったのです。
「売れました」という最初の朗報は埼玉県朝霞の陸上自衛隊を回っていた社員からもたらされた。演習場で給湯車からカップヌードルに湯を入れて、隊員に配られたのである。
典拠元 第23回 浅間山荘事件 隊員の食事、大写しに テレビ・新聞で大きく報道 安藤百福(日清食品創業者)
http://bizacademy.nikkei.co.jp/management/resume10/article.aspx?id=MMAC2e002030052014
当時の営業マンたちの苦労がしのばれますよね。
また、もう一つカップヌードルをめぐるエピソードとして有名なものに、1972年の浅間山荘事件当時に報道された現場の機動隊員らの喫食風景があります。
同事件では地元の長野県警機動隊のほか、東京からも応援部隊として警視庁機動隊が現場に入りました。事件の発生は極寒の2月。事件の解決にあたるため奔走する機動隊員らや指揮幕僚たち。直面した問題は人質を取って親の説得にも耳を貸さず、立てこもりを続ける若者ら、さらにこの極寒の中での警察官らの食事でもありました。まともな温かい食事ができなければ、警察官らの体力と士気は下がります。現場では地元の婦人会らが無償で炊き出しを行い、おにぎりや豚汁など温かな食事を警察官に提供しました。また、一方で機動隊員らの食事として警視庁がカップヌードルを購入し、機動隊員に配給したそうです。
72年2月の連合赤軍による浅間山荘事件である。テレビの現場中継を見ながら、あっと息をのんだのを覚えている。雪の中で山荘を包囲する機動隊員が湯気の上がるカップヌードルを食べているのだ。しかも、それが繰り返し画面に大写しされた。当時、カップヌードルが納入されていたのは警視庁の機動隊だけだった。他の県警や報道陣から、すぐ送ってくれという電話が直接本社に入ってきた。それがまた新聞で大きく報道された。
典拠元 第23回 浅間山荘事件 隊員の食事、大写しに テレビ・新聞で大きく報道 安藤百福(日清食品創業者)
http://bizacademy.nikkei.co.jp/management/resume10/article.aspx?id=MMAC2e002030052014
現場の警察官のみならず、マスコミの記者も思わず食べたくて注文したという話は頬が緩みます。なお、警視庁のお金で買ったカップヌードルは長野県警の機動隊員には配給されず、それが原因でお互いの仲は険悪になったとされます。やはり食い物の恨みというのは。
日清はその後、新たなカップヌードルを開発しました。それが「自衛隊向け専用商品」と日清が公言する「SDFヌードル」なるカップめん。これは自衛隊駐屯地、基地内の売店(PX)で販売されているほか、日清公式サイト「日清e-めんshop」でも通販購入が可能。
その気になる味ですが、カップヌードルより若干濃い目に仕上げられています。
また、内容量はエビなど全体的に少ないようです。しかし、何より市販品と違う部分は「バーコードがついていない」ということでしょう。なお、似たようなコンセプトのカップめんに、エースコック製の「自衛隊オリジナルラーメン・標的」という商品もあります。
参考 日清公式サイト「日清e-めんshop」
http://shop.nissinfoods.co.jp/product/search/ search.html?kw=SDF&x=0&y=0
みんなで真似よう”演習おやつセット”
「そこが変だよ!自衛隊」の著者として知られる元自衛官の大宮ひろ志氏によれば、かつて昭和の終わりから平成のはじめにかけて、コンバットレーションなるものが自衛隊の一部に存在したそうです。
その内容物は魚肉ソーセージ、パックタイプのりんごジュース、ういろう、みそパンの四種類。それらが透明のビニール袋に詰まっており、袋の表には「コンバットレーション」とカタカナで明記されていたそうです。
残念ながら陸自での戦闘糧食I型の新規調達は打ち切られII型へ全面移行へ!
さて、この缶詰タイプの戦闘糧食I型ですが、残念なことに(むしろ隊員は歓迎?)2016年2月に陸上自衛隊での納入が打ち切りになったとの報道がありました。今後は後継のII型に全面切り替えになるそうです。
レトルトパックタイプのII型はメニューが豊富で何より、味が良いので隊員から好評です。なお、海自と空自では戦闘糧食I型を今後も継続調達するそうです。
なお、陸上自衛隊での廃止の理由は「かさばって持ち運びが不便なうえ、鍋などで加熱して食べるので、部隊は調理器具も運ぶ必要があったため」と読売新聞が伝えています。
陸上自衛隊は、隊員が任務などの際に持ち歩く携行食の「戦闘糧食」を、従来の缶詰タイプからレトルトパックタイプへ全面的に切り替えることを決めた。
中略
これに対し、90年に登場したレトルトパックタイプは、1食分が1袋にまとまっていることや、水を加える発熱材を使うことで手軽に温めて食べられるのが特徴。空から投下しても破れるなどの問題がなかったことも実験で確認された。
2016年02月23日 18時04分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
引用元
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160223-OYT1T50145.html?from=ytop_main4
戦闘糧食I型は先の東日本大震災でも被災者へ支給されるなどの活躍がありました。
ただ、自衛隊としては備蓄している食料として出せるものを出さざるを得なかった一方で、災害時に赤飯を出したことに憤りを覚えた被災者もいたとの報道があります。
なお、II型でも一部のメニューには赤飯があり、継続されております。ただ、今回の報道によると航空自衛隊や海上自衛隊では今後も戦闘糧食I型が継続配給されるようです。
戦闘糧食II型。空中投下でも敗れない丈夫な包装。味も美味。缶詰タイプである戦闘糧食Ⅰ型は頑丈なこともさることながら、レトルトに比べて保存期間が長期間という利点もありましたが、実際に食べる隊員らにとってみれば、戦闘糧食Ⅰ型に比べてレパートリーの豊富さが魅力かもしれません。レトルトになっていくのは時代の趨勢でしょうね。
戦闘糧食の横流し問題
自衛官が自分に配給された戦闘糧食を売るということは認められていません。ましてや勝手に倉庫から持ち出して売りさばくなんて、もちろん業務上横領です。現在もオークションサイトでは自衛隊のものとみられる戦闘糧食が多く出品されていますが、防衛省では適宜調査を行っているそうです。
自衛官「ミリメシ」盗んだ疑い ネット販売し懲戒免職
陸上自衛隊小倉駐屯地は29日、第40普通科連隊の男性陸士長(23)を懲戒免職にし、発表した。部隊の倉庫から野戦用の戦闘糧食20食分(時価約1万2千円)を盗み出し、ネットオークションで販売した窃盗の疑いで28日に警務隊に検挙された。「借金の返済や遊興費に使おうと思った」と容疑を認めているという。
同駐屯地によると、陸士長は当直勤務中だった昨年9月12日、倉庫の鍵を無断で持ち出して、レトルトのご飯とおかずがセットの戦闘糧食を盗んでネットオークションに出品し、1万円で販売した疑いがあるという。ネットを見た上級部隊から同15日に通報があり、発覚した。戦闘糧食は市販されておらず「ミリメシ」として一部で人気があるという。典拠元 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASJ3Y43D4J3YTLLS001.html
現在もオークションサイトでは、自衛隊のものとみられる戦闘糧食が多く出品されています。購入者にはそれらが、正規に廃棄されたものなのか、広報で配られたものなのか、盗まれたものなのかわかりません。
ネットオークションの発達で自衛隊の配給品に金銭が絡んでくると、防衛省も重い腰を上げざるを得ないでしょうね。
追記 自衛隊関連の物品約1万5000点を出品し、計約650万円売り上げた陸曹が懲戒免職
自衛隊員が災害派遣時などに用いる保存食「戦闘糧食」をインターネットのオークションサイトに出品したなどとして、自衛隊大阪地方協力本部は15日、同本部の男性1等陸曹(46)を懲戒免職処分にした。
2009年頃から自衛隊関連の物品約1万5000点を出品し、計約650万円を得ていたという。
発表では、1等陸曹は「業務で使う」とうそをついて、少なくとも段ボール3箱分のレトルトのコメやおかずの戦闘糧食を入手し、計約1万4000円を売り上げたという。他にも、自費で買った階級章や自衛隊関連のイベントチケットなども出品
省略
戦闘糧食の件では、陸上自衛隊中部方面警務隊(兵庫県)が昨年6月、詐欺容疑で神戸地検に書類送検。不起訴(起訴猶予)となっている。
典拠元 ライブドア
http://news.livedoor.com/article/detail/11419393/
再び発覚したカンメシ横流し事件。今度は地方協力本部勤務の広報官の陸曹です。
それにしても、自衛隊の関連物品を大量にネットオークションに出品するという信じがたい行為は
税金の横領行為ですから、厳しい処分が下るわけですね。
さて、それでは次のページにて戦闘糧食2型を解説していきましょう。